造作買取請求権とは

掲載日 : 2014年6月7日

造作買取請求権とは
「造作買取請求権」とは、建物の賃貸借契約が終了したときに、賃借人が建物に付加した「造作」について、賃借人が賃貸人に対して時価で買い取ることを請求する権利であり、借地借家法第33条に規定されています。

例えば「Aさんが、Bさんからマンションの一室を借りて居住していたところ、Aさんが部屋に新しいシステムキッチンを備え付けた」という事例において、一定の要件を満たせば、賃貸借契約が終了した際、Aさんは、備え付けたシステムキッチンをBさんに時価で買い取ってもらうことができます。

上記事例で、仮に造作買取請求権が無いとすると、Aさんは備え付けたシステムキッチンを収去して、部屋を元の状態に戻さなければなりません。しかし、その家に合わせて作った設備の場合、取り外しても別の家に付け替えることができず、使い道が無いということがしばしばあります。にもかかわらず、Aさんがシステムキッチンを収去しなければならないとすると、Aさんは収去費用を負担し、かつ、使い道のない設備だけが手元に残るということになります。
そこで、造作買取請求権を認めることにより、Aさんは、システムキッチンをBさんに時価で買い取ってもらうことで、システムキッチンの収去費用も不要になりますし、Bさんからシステムキッチンの代金も受領することができます。このように、造作買取請求権は賃借人を保護するための制度と言うことができます。
また、せっかく取り付けられた設備を取り外して処分することは資源的にも無駄が多いということで、そのような無駄を防ぐことも造作買取請求権の趣旨の一つである、と言われることもあります。

造作買取請求権の成立要件
造作買取請求権は、借地借家法33条に規定されているとおり、以下の①②の要件を満たすことによって成立します。また、借地借家法33条は、賃貸人と賃借人が合意すれば排除することができますので、以下の③も要件となります。

  • 「建物の賃貸人の同意を得て造作を付加すること」
  • 「建物の賃貸借が、期間の満了または解約の申し入れによって終了すること」
  • 賃貸人と賃借人との間で、造作買取請求権を排除する旨の合意が無いこと

以下、各要件について簡単に説明します。

「建物の賃貸人の同意を得て造作を付加すること」
まず、「造作を付加すること」が要件となっていますので、備え付けるものは「造作」でなければ造作買取請求権は成立しません。
ここで「造作」とは何かというのが問題となりますが、古い判例の中で「建物に附加された物件で、賃借人の所有に属し、かつ建物の使用に客観的便益を与えるもの」とされています。
この判例に従うと、まず「建物に附加」されなければならないので、建物から独立した物(家具等)について造作買取請求権は成立しません。
次に、付加された物が「賃借人の所有に属し」なければなりません。例えば、賃借人が壁にペンキを塗ったというケースでは、付加した物(ペンキ)が建物と分離不可能となってしまいます。このような場合、ペンキの所有権は賃貸人に移ってしまうため(「付合」といいます)、造作買取請求権は成立しません。なお、この場合は、別途ペンキ代の精算という問題は生じます。
判例では、ガス設備、配電設備、シャワー設備等が「造作」とされており、その他、クーラーやシステムキッチンなども「造作」に当たると思われます。
そして、造作買取請求権が成立するためには、「建物の賃貸人の同意を得」ることが必要ですから、上記の例で見ると、Aさんは、システムキッチンを備え付けることについて、Bさんの同意を得ることが必要となります。

「建物の賃貸借が、期間の満了または解約の申し入れによって終了すること」
次に「建物の賃貸借が…終了すること」が要件となります。上記の例で見ると、Aさんは、賃貸借契約が終了するまでは造作買取請求権は行使できません。よって、Aさんは、借りた家に住み続けながら、「このシステムキッチンはもう使わないから買い取ってくれ」とは言えません。
そして、賃貸借契約の終了原因は、「期間の満了または解約の申し入れ」によることが必要です。例えば、Aさんが賃料の不払いを起こして、Bさんから建物賃貸借契約を解除された場合、賃貸借契約は終了しますが、Aさんは造作買取請求権を行使できません。
賃料を支払わずに契約を解除されたような場合まで、Aさんを保護して権利を認める必要はないからです。

賃貸人と賃借人との間で、造作買取請求権を排除する旨の合意が無いこと
最後に「賃貸人と賃借人との間で、造作買取請求権を排除する旨の合意が無いこと」が必要です。
上記の例で、「この建物はAさんに貸してあげるけれども、賃貸借契約の途中でAさんが造作を付けたとしても、造作買取請求権は行使できないこととする」という合意がAB間でなされると、Aさんは、上記①②の要件を満たして造作を附加したとしても、造作買取請求権は行使できません。
賃借人保護という観点からは、このような賃借人に不利な合意を認めるべきでは無いのではないか、とも思えます。たしかに借地借家法は、賃借人保護という観点から、一定の条項については、法律の規定以上に賃借人に不利な合意をしても無効であると規定しています(法30条、37条)。そうしなければ、法律で賃借人を保護した意味が薄れてしまうからです。
しかしながら、造作買取請求権については、権利を排除する合意は無効とはなりません。これは、造作買取請求権を排除できないとすると、賃借人が造作を取り付けようとしたときに、賃貸人からの同意が得られにくくなって、かえって不便であるため、等の理由が挙げられます。上記の例で見ると、Aさんがシステムキッチンを付けたいと思ってBさんに同意を求めたところ、Bさんは、「最後に自分がシステムキッチンを買い取るのは嫌だから、設置は認めないことにしよう」と考えて、設置に同意しないということが起こりうるという考えで、そのような合意を無効としていた旧借家法から改正されました。

以上、造作買取請求権について簡単に説明しました。
借地借家法33条の例に挙がっている造作は「畳、建具」となっていますが、現代では畳などは部屋に当然備え付けられていることが多いでしょうし、またクーラーなどを賃借人が設置したとしても、取り外して引っ越し先に持っていくことが多いのではないでしょうか。また、上記のとおり、造作買取請求権は特約で排除できることとなりましたので、居住用住宅の賃貸借契約において、造作買取請求権は以前と比べると争いになりにくくはなってきています。
とは言え、現在でも造作買取請求権を巡る争いが無くなったわけではありませんので、今後賃貸借契約を締結する際には、契約書に造作買取請求権についてどのような定めがなされているのかを是非確認してみて下さい。

【コラム執筆者】
中本総合法律事務所
弁護士 宮崎慎吾