事業承継と遺留分に関する民法の特例③適用の効果と具体例

掲載日 : 2014年4月11日

自社株式などの承継に関する遺留分制度の限界を補うため、平成20年5月に成立した経営承継円滑化法に基づき、遺留分に関する民法の特例ができました。

この特例は、一定の要件を満たす後継者が、遺留分権利者全員との合意及び所要の手続(経済産業大臣の確認、家庭裁判所の許可)を経ることにより、以下の効果を得られることができます。

  • 生前贈与された自社株式を遺留分算定基礎財産から除外(除外合意)
  • 生前贈与された自社株式を遺留分算定基礎財産に算入する際の評価額を予め固定(固定合意)

具体例
遺留分算定の基礎となる財産額には、生前贈与された財産も合算します(1029条1項)。
なお、配偶者や子といった法定相続人への贈与は相続の前渡し分(特別受益)とされ、原則として何年前の贈与であっても合算の対象となります。

従来の遺留分制度では、後継者以外の者の遺留分額が大きくなります。
しかし、この特例の要件となっている遺留分権利者全員との合意により、以下の効果を得ることができます。

設例
Aは100パーセント株式を有する会社Zの代表者です。AにはB、Cの子がいましたが、AはZ株式全部を後継者Bに生前贈与していました(生前贈与時の評価額は2,000万円とします。)。なお、A死亡時点で、Z株式の評価額が5,000万円で、Aには他に1,000万円の定額貯金しかありませんでした。

従来の遺留分制度
1029条1項に従えば、Z株式の価格を加えて算定する結果、Cの遺留分は以下の通りになります。

遺留分額 遺留分の基礎となる財産額×遺留分の割合×法定相続分
1,500万円=(貯金1,000万円+Z株式5,000万円)
×1/2(※1)×1/2(※2)

※1遺留分の割合
直系尊属のみが相続人の場合:1/3(1028条1号)
その他の場合:1/2(1028条2号)
※2法定相続分
本件では子2人による相等しい相続分(900条4号)であり、1/2

除外合意の効果
株式等の価額を遺留分を算定するための財産の価額に算入しないことについての合意を行うことにより、以下の効果を得ることができます。

遺留分額 遺留分の基礎となる財産額×遺留分の割合×法定相続分
250万円=貯金1,000万円×1/2×1/2

株式評価の時点はA死亡時と解されていますので、1,000万円の貯金だけでは対応できず、CはZ株式に遺留分減殺請求権を行使することが可能になります。
ところが、除外合意をすれば、Z株式の価額を加えて算入する必要がないので、Cの遺留分は貯金の範囲で対応できることになります。

固定合意の効果
当該株式等の価額を遺留分を算定するための財産の価額に算入すべき価額を当該合意の時における価額とすることにより、以下の効果を得ることができます。
除外合意と同じく貯金の範囲で対応できます。

遺留分額 遺留分の基礎となる財産額×遺留分の割合×法定相続分
750万円=
(貯金1,000万円+Z株式2,000万円)×1/2×1/2

Cとしても、除外合意までは出来ないにしても、仮に、生前贈与時点でZ株式の評価額が2,000万円であった場合は、その限度で合意することは十分考えられますし、Bとしても、自らの経営努力によってZ株式の評価額を5,000万円まで押し上げたのですから、そのインセンティブを確保したいと思うのはもっともかと思います。

【関連コラム】
事業承継と遺留分に関する民法の特例①従来の問題と適用要件
事業承継と遺留分に関する民法の特例②合意と手続きの留意点

【コラム執筆者】
村上・新村法律事務所
弁護士 村上博一

事務所HP :
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