事業承継と遺留分に関する民法の特例①従来の問題と適用要件

掲載日 : 2014年4月9日

平成20年10月1日に施行された、いわゆる経営承継円滑化法(以下、単に法といいます。)は、「中小企業について…遺留分に関し民法の特例を定めるとともに、中小企業者が必要とする資金の供給の円滑化等の支援措置を講ずることにより…経営の承継の円滑化」を図るものです。

そこで1つの柱とされている「遺留分に関する民法の特例」について、簡潔に説明したいと思います。

.事業承継における従来の遺留分制度の問題
1)資産の細分
資産を細分化させないことが遺言をする動機・目的の1つであることは、以前説明しました。
資産を細分化しないための遺言①特定の資産の相続
資産を細分化しないための遺言②敷金・株式等の相続に関する問題点

例えば、Aが100パーセント株式を有する会社Zの代表者でマンション甲を所有し賃貸経営していたとします。Aの子としてB、Cが存在した場合、Aが死亡すれば、均分相続の建前により、B、Cがそれぞれ2分の1ずつ法定相続(887条1項、900条1号)する形になり、遺産分割が終了するまではZの株式はB、Cが準共有(264条)ということになります。

しかし、会社法106条によれば、権利を行使する者一人を定めなければ、当該株式についての権利を行使することができません。このため、B、Cの意見対立があると、結局、Zの代表者を誰にするかも含め経営が立ち行かなくなり、最悪の場合はZ株式等を換価し金銭で分割しなければならないという事態も生じます。
そうなると、せっかく築いたZの経営も失われていくことになります。

2)遺留分減殺請求による自社株式等の分散
この場合、例えば、Aが「Z株式の全てをBに相続させる」旨の遺言をしておけば、資産を細分化させることなく、Z株式はB1人に帰属するので、そのような事態は生じないということです。

ただ、この遺言によるスキームには、少し問題があります。
一番大きな点は、Cが遺留分減殺請求権を行使した場合、Z株式につきCが権利(Aにその他の財産がないとすればZ株式の4分の1)を取得する可能性があるという点です。
※この場合のB、Cの権利関係について
遺留分減殺請求権の行使②その効果

結局、遺言によっても、似たような事態が生じ得るという訳です。Aが死亡した後では、B、Cの関係調整はより難しくなるだろうという問題もあります。

3)特別受益の問題
それに加えて、特別受益の問題も生じます。
即ち、遺留分算定の基礎となる財産額には、生前贈与された財産も合算します。
そして、配偶者や子といった法定相続人への贈与は相続の前渡し分(特別受益)とされ、原則として何年前の贈与であっても合算の対象となります。

この場合、合算される財産の評価時点は贈与時ではなく、相続開始時となります。すると、後継者(例えば子)に生前贈与された株式の価値が、後継者自身の貢献により上昇した場合であっても、価値が上昇した分を含めて遺留分減殺請求の対象となります。
これでは、生前贈与を受けた後継者は、その努力により株式の価値を高めても、後継者以外の者の遺留分が増えるという皮肉な結果になってしまいます。

.遺留分に関する民法の特例
そこで、相続紛争や自社株式の分散を防止し、後継者にスムーズに事業承継させるべく法4条以下で遺留分に関する民法の特例が定められました。
この特例は、Aから後継者Bへの生前贈与によるスキームです。

この特例を受けるためには、「特例中小企業者」の「旧代表者」が「後継者」にその株式または持分(以下、株式等)を贈与した場合、推定相続人の全員が一定の合意をし、経済産業大臣の確認を受け、家庭裁判所の許可を得る必要があります。

1)対象者

  • 特例中小企業者
    中小企業(※)で、非上場、かつ、3年以上事業継続している必要があり、これを、特例中小企業者といいます(法3条1項、法施行規則2条)
    ※資本金等、従業員数、業種によって定まるもので、中小基本法2条1項に定めるものとほぼ同じです(法2条)。
  • 旧代表者
    特例中小企業の代表者であった者(但し、これから事業承継をさせようとしている者も含める必要があるので、現代表者でも可とされています。)であり、その推定相続人(※)のうち、少なくとも一人に対し、特例中小企業者の株式等を贈与したことがある者をいいます。
    ※推定遺留分権利者であり、旧代表者の兄弟姉妹等を除きます。
    かかるスキームは、遺留分対策のものであるため、子等がおらず兄弟姉妹等に事業承継をさせる場合であれば、前述した遺言のみによる対応で足りるからです。
  • 後継者
    後継者とは、旧代表者の推定相続人であって、旧代表者から株式等の贈与等を受け、当該特例中小企業者について、総株主等の議決権の過半数を有している、代表者である者をいいます。

2)適用要件

  • 現実の贈与等
    対象株式等(合名会社、合資会社、合同会社といった持分会社の持分も含むことから株式等という表現をとっています。)は、旧代表者(A)から後継者(B)に現実に贈与等が履行されたものでなければなりません。
    ※事業承継研究会「事業承継問題の研究」大阪弁護士会14頁。
    なお、贈与等という表現は、例えば、旧代表者が祖父として孫が後継者となる場合その祖父が亡父に贈与しその孫が相続等したものも含むという意味で用いられています。
  • 民法特例に係る合意
    後継者が、旧代表者から贈与等を受けた株式等によって当該特例中小企業者の総株主等の議決権の50%を超える数を有するに至った場合、当該株式等について、旧代表者の他の推定相続人との間で、書面によって、以下の合意をすることができます(法4条1項)。
除外合意(同項1号) 当該株式等の価額を遺留分を算定するための財産の価額に算入しないこと
固定合意(同項2号) 当該株式等の価額を遺留分を算定するための財産の価額に算入すべき価額を当該合意の時における価額とすること

なお、固定合意をする際は、弁護士、公認会計士等が「合意の時の相当な価額として証明」することが必要です。

【関連コラム】
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事業承継と遺留分に関する民法の特例③適用の効果と具体例

【コラム執筆者】
村上・新村法律事務所
弁護士 村上博一

事務所HP :
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