遺留分減殺請求権の行使~相手方複数等の場合

掲載日 : 2014年4月8日

相手方や目的物が複数ある場合の遺留分減殺請求権の行使は、どのようになるでしょうか。以前説明した、東高判平成12年3月8日判タ1039号294頁以下(以下、平成12年高裁判決)の事案を題材に、考えてみましょう。

事案の概要
Aが死亡し、その法定相続人として5人の子B、C、D、E及びFがいました。
Aの相続財産は、甲不動産(借地上の建物、時価2,400万円)、乙不動産(土地建物、時価6,700万円)及び預貯金(900万円)でした(合計1億円)。
Aは、死亡する4年程前、Bとの間で、甲不動産をBに死因贈与する旨の契約書を交わし、所有権移転仮登記を経ました。その約10日後、Aは、遺言をし、その内容は「Bに甲不動産を相続させる、Cに乙不動産を相続させる、D、Eに預貯金を等分で相続させる」というものでした。
その後、Aは死亡したのですが、Aの遺言に不満であったDが遺留分減殺請求をしました。

具体的には、Dは、遺留分が1,000万円であるとして、預貯金の半分450万円を差し引いた550万円について遺留分減殺請求権を行使しました(Eについても同様でしたが、この点は省略します。)。
※下線部の遺留分の計算式は、以下のとおりです。

遺留分額 遺留分の基礎となる財産額×遺留分の割合×法定相続分
1,000万円
=相続財産1億円(甲不動産+乙不動産+預貯金)
×1/2(※1)×1/5(※2)

※1遺留分の割合
直系尊属のみが相続人の場合:1/3(1028条1号)
その他の場合:1/2(1028条2号)
※2法定相続分
本件では子5人による相等しい相続分(900条4号)であり、1/5

そして、以前説明したところですが、平成12年高裁判決は、以下のとおり述べ、死因贈与の取り扱につき贈与説を採りました。

平成12年高裁判決
死因贈与も、生前贈与と同じく契約締結によって成立するものであるという点では、贈与としての性質を有していることは否定すべくもないのであるから、死因贈与は、遺贈と同様に取り扱うよりはむしろ贈与として取り扱うのが相当であり、ただ民法一〇三三条及び一〇三五条の趣旨にかんがみ、通常の生前贈与よりも遺贈に近い贈与として、遺贈に次いで、生前贈与より先に減殺の対象とすべきものと解するのが相当である。そして、特定の遺産を特定の相続人に相続させる旨の遺言による相続は、右の関係では遺贈と同様に解するのが相当である

その結果、本件については、先ずはCに対し乙不動産について減殺請求権が行使されることになります。すると、Dの侵害されている遺留分額は550万円に過ぎず、乙不動産の価格は6,700万円なのでその中で減殺されて事足り、相手方や目的物が複数である場合ではなくなります。
※その後については、Dは、乙不動産について550/6700(11/134)の割合で権利を取得し、その点についてCと共有分割等の協議をしていくことになります。
この点については、遺留分減殺請求権の行使②その効果 を参照ください。

遺贈説によった場合
では、仮に、死因贈与の取扱いにつき遺贈説をとった場合は、どうなるでしょうか。この場合、Cに対する乙不動産のみならずBに対する甲不動産についても減殺請求権が行使されることになります。遺贈説によれば、死因贈与=遺贈と考えるので、Cに対し相続(≒遺贈)させられた乙不動産と同順位に取り扱われるからです。
すると、相手方と目的物が複数である場合に遺留分減殺請求権をどのように行使するかが問題となり、具体的には、1034条にいう「目的物の価額の割合に応じて」減殺するというのは、どのような意味かが問題になってくる訳です。

1)平成12年高裁判決の原審
1034の文言どおり、純粋に価額割合と考えるとDは、以下の割合で権利を取得します。
平成12年高裁判決の原審は、遺贈説をとって、このような結論を導きました。

甲不動産について
550÷(9100=2400〈甲不動産価額〉+6700〈乙不動産価額〉)×2400/9100
≒145/9100(29/1820)
乙不動産について
550÷9100×6700/9100≒404/9100(101/2275)

2)しかし、これだと、B、C自らが有する遺留分への配慮に欠けます。その点を考慮すれば、それぞれ1000万円の遺留分を有しているのでその侵害のないよう、それを差し引いた数字を前提に考えるべきです。この点を示したのが、最1小判平成10年2月26民集52巻1号274頁以下です(以下、平成10年最高裁判決)。
即ち、平成10年最高裁判決は「相続人に対する遺贈が遺留分減殺の対象となる場合においては、右遺贈の目的の価額のうち受遺者の遺留分額を超える部分のみが、民法1034条にいう目的の価額に当たるものというべきである。けだし、右の場合には受遺者も遺留分を有するものであるところ、遺贈の全額が減殺の対象となるものとすると減殺を受けた受遺者の遺留分が侵害されることが起こり得るが、このような結果は遺留分制度の趣旨に反すると考えられるからである」としています。
この立場で考えるとDは、以下の割合で権利を取得することになります。

甲不動産について
550÷(7100=1400〈甲不動産価額-1000〉+5700〈乙不動産-1000〉)×1400/7100
≒108/7100(27/1775)
乙不動産について
550÷7100×5700/7100≒4411/7100

【関連コラム】
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【コラム執筆者】
村上・新村法律事務所
弁護士 村上博一

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