遺留分減殺請求権の行使~遺贈、死因贈与、生前贈与の減殺の順序

掲載日 : 2014年4月7日

遺留分減殺請求の対象となる遺留分を侵害する行為には遺贈、死因贈与、生前贈与などがあります。
※遺贈とは、遺言により行う贈与
※死因贈与とは、贈与する者の死亡により効力が生じる生前の財産の贈与契約

遺留分侵害行為が複数ある場合、以下のように減殺請求を行なうことになります。

  • まず、遺贈から減殺請求を行ないます。
    贈与は遺贈を減殺した後でなければ減殺することができません(1033条)。
  • 次に、新しい(相続開始時に近い)贈与から減殺を行い、順次古い(昔の)贈与が減殺されます(1035条)。
  • では、死因贈与がされた場合は、どうなるでしょうか。
    条文では明らかでなく、遺贈に近いと考える遺贈説と生前贈与に近いと考える贈与説の対立があります。

遺贈説
554条は「その性質に反しない限り、遺贈に関する規定を準用する」としているところ、遺贈は「遺言者が、包括又は特定の名義で、その財産の全部又は一部を処分」すること(964条)ですから「遺言者は、いつでも…遺言の全部又は一部を撤回(取消)することができる」とされています(1022条)。
仮に、この1022条が死因贈与にも準用されるとするなら、それが契約だといってもそれほどの拘束力はなく遺贈と同様に考えてもよいのではないかということになります。これが、遺贈説の大きな論拠です。

死因贈与と1022条に関する最高裁の立場
最高裁も、一般論としては「死因贈与については、遺言の取消(撤回)に関する民法1022条がその方式に関する部分を除いて準用される」としています(最1小判昭和47年5月25日判タ283号127頁以下)。

※下線部の意味ですが、1022乃至1024条によれば、遺言は撤回も「遺言の方式」等により行うとされているところ、死因贈与は遺言でされるものではないため、その撤回も遺言の「方式に関する部分を除い」た形でされるというものです。

しかし、他方、負担付死因贈与がなされた事案において、最2小判昭和57年4月30日金商647号3頁以下は「負担の履行期が贈与者の生前と定められた負担付死因贈与契約に基づいて受贈者が約旨に従い負担の全部又はそれに類する程度の履行をした場合においては、贈与者の最終意思を尊重する余り受贈者の利益を犠牲にすることは相当でないから、右贈与契約締結の動機、負担の価値と贈与財産の価値との相関関係、右契約上の利害関係者間の身分関係その他の生活関係等に照らし右負担の履行状況にもかかわらず負担付死因贈与契約の全部又は一部の取消をすることがやむをえないと認められる特段の事情がない限り、遺言の取消に関する民法1022条、1023条の各規定を準用するのは相当でない」としています。
その意味で、死因贈与に1022条が準用されるかは、事案によりけりといえ遺贈説の論拠も盤石とはいえません。

贈与説
この点、贈与説に立つ下級審判例(東高判平成12年3月8日判タ1039号294頁以下。以下、平成12年高裁判決)が参考になるので、紹介します。

事案の概要
Aが死亡し、その法定相続人として5人の子B、C、D、E及びFがいました。
Aの相続財産は、甲不動産(借地上の建物、時価2,400万円)、乙不動産(土地建物、時価6,700万円)及び預貯金(900万円)でした(合計1億円)。
Aは、死亡する4年程前、Bとの間で、甲不動産をBに死因贈与する旨の契約書を交わし、所有権移転仮登記を経ました。その約10日後、Aは、遺言をし、その内容は「Bに甲不動産を相続させる、Cに乙不動産を相続させる、D、Eに預貯金を等分で相続させる」というものでした。
その後、Aは死亡したのですが、Aの遺言に不満であったDが遺留分減殺請求をしました。

1033条は、先ず遺贈から減殺すべきとしているので、乙不動産を相続したCに対し遺留分減殺請求権が行使されることになりますが、その際、甲不動産の死因贈与を受けたBがどうなるか問題になりました。
死因贈与が遺贈と同じと解されるなら「目的物の価格に応じて減殺」される(1034条)ことになりますし、贈与と同じと解されるなら「遺贈を減殺した後」に減殺される(1033条)ことになります。かかる事案について、平成12年高裁判決は、次のとおり、述べました。

平成12年高裁判決
死因贈与も、生前贈与と同じく契約締結によって成立するものであるという点では、贈与としての性質を有していることは否定すべくもないのであるから、死因贈与は、遺贈と同様に取り扱うよりはむしろ贈与として取り扱うのが相当であり、ただ民法一〇三三条及び一〇三五条の趣旨にかんがみ、通常の生前贈与よりも遺贈に近い贈与として、遺贈に次いで、生前贈与より先に減殺の対象とすべきものと解するのが相当である。そして、特定の遺産を特定の相続人に相続させる旨の遺言による相続は、右の関係では遺贈と同様に解するのが相当である

この事案は、相続させる遺言に関するものでしたが、遺贈説を採った上で、その趣旨は相続させる遺言にも及ぶとしたものです。

※下線部の意味ですが、以下のとおり考えると理解できると思います。
即ち、1033条が「贈与は、遺贈を減殺した後でなければ、減殺することができない」としている趣旨は「新たな処分から先に減殺させることにより、減殺請求を受ける者に対する影響を極力少なくしようとする」ところにあるので「相続させる旨の遺言は、相続による一般承継と位置づけられるものの、遺言者の死亡によって即時移転の効果が生ずるという点で遺贈と何ら変わりがないから、遺贈と同視して減殺の対象になると解すべき」ということです(神谷「平成12年高裁判決判例評釈」判例評論517号21頁以下)。

世間で見受ける遺言書や契約書を前提とすれば、死因贈与と遺贈はそれほど明確に区別できない場合があります。例えば、自筆証書遺言が押印を欠く等して方式違反から無効(960条、968条1項)とされる場合、そこでの遺贈の記載をもって遺言者たる被相続人から死因贈与の意思表示があったと解釈し、結論的にその相手方を救済することがあります(最3小判昭和32年5月21日民集11巻5号50頁以下は、遺言証書という表題の文書を死因贈与と解釈した原審判断を支持したものです。)。にもかかわらず両者に法的な差異を認める贈与説は問題だというのが遺贈説の実質的な論拠です。つまり、贈与説を採ると、遺言が無効として死因贈与と認定された方が、それが贈与として取り扱われる結果、遺言が有効として遺贈があったとされる場合よりも、遅れて遺留分減殺されることになって有利であるが、それは不合理だということです。かなり説得的な論拠といえます。

しかし、平成12年高裁判決が説くとおり、死因贈与は「契約」として「贈与としての性質」を有していると思われますし、実際、死因贈与に関する定めは554条ですが、それは民法第二章「契約」の第2節「贈与」の箇所にありことを考えると、基本的には遺贈説が相当と考えるべきでしょう。特に、本件の場合、Bとしては甲不動産につき所有権移転仮登記を経ています。その意味で、その拘束力はかなり強いと考えていいでしょう。従って、本件事案の処理としては、贈与説が妥当と解して構わないと思われます。

最後に、減殺の順序としては、平成12年高裁判決は「死因贈与は…民法1033条及び1035条の趣旨にかんがみ、通常の生前贈与よりも遺贈に近い贈与として、遺贈に次いで、生前贈与より先に滅殺の対象とすべきものと解するのが相当である」としました。その結論は、1033条等からの趣旨(遺贈が、遺留分を直接侵害してその権利を害するものであり、それ以前の贈与については、極力影響を少なくする)からも導けるでしょうし、死因贈与は、その効力が死亡によって生じることから「贈与の中では最も新しいもの」として「後の贈与」として先に減殺される(1035条)ともいえると思います(鈴木「相続法講義」創文社148頁)。

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【コラム執筆者】
村上・新村法律事務所
弁護士 村上博一

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