遺言執行者⑫相続財産の占有・管理は誰が行うのか(平成10年判決の射程範囲)

掲載日 : 2014年4月4日

設問
被相続人が不動産を有しており、その子として甲、乙がいました。
被相続人は、甲に不動産を遺贈乃至は相続させる旨の遺言を残していたにもかかわらず、被相続人死亡後乙が不動産を単独で占有し事実上管理をしていたとします。
当該遺言には遺言執行者が存在した場合、甲、乙、遺言執行者の関係はどうなるのでしょうか。

この点、最2小判平成10年2月27日民集52巻1号299頁以下(以下、平成10年判決)は、不動産について「相続させる」旨の遺言がされた場合においては、原則として遺言執行者には、当該不動産を管理する義務や、これを相続人に引き渡す義務はないとしました。

平成10年判決
特定の不動産を特定の相続人に相続させる趣旨の遺言をした遺言者の意思は、右の相続人に相続開始と同時に遺産分割手続を経ることなく当該不動産の所有権を取得させることにあるから…その占有、管理についても、右の相続人が相続開始時から所有権に基づき自らこれを行うことを期待しているのが通常であると考えられ、右の趣旨の遺言がされた場合においては、遺言執行者があるときでも遺言書に当該不動産の管理及び相続人への引渡しを遺言執行者の職務とする旨の記載があるなどの特段の事情のない限り、遺言執行者は、当該不動産を管理する義務や、これを相続人に引き渡す義務を負わないと解される。そうすると、遺言執行者があるときであっても、遺言によって特定の相続人に相続させるものとされた特定の不動産についての賃借権確認請求訴訟の被告適格を有する者は、右特段の事情のない限り、遺言執行者ではなく、右の相続人であるというべきである。

設問でいえば、これが「相続させる」旨の遺言であった場合、賃料の管理をしたり、乙に占有の明け渡しを求めるのは、受益相続人たる甲だということになります。遺言執行者としては、対抗要件としての移転登記のみが職責であり、甲に移転登記がなされたならば完全な移転をしたという意味で、十分に義務を果たしたと解されます(平成10年判決判例解説237頁)。

遺贈の場合
では、当該不動産が遺贈された場合は、どうでしょうか。

平成10年判決の射程は遺贈の場合にも及ぶとされています(平成10年判決判例解説233頁)。
遺言者としては、受遺者についても、平成10年判決の説くとおり「相続開始時から所有権に基づき自らこれを行うことを期待しているのが通常である」と考えられるでしょう。

そもそも、受遺者は、一般の相続債権者には劣後するものの、相続人に受遺目的物の引渡等を求めることができるという意味で、相続債権者の一種です。例えば、931条は「限定承認者(相続人)は…相続債権者に弁済をした後でなければ、受遺者に弁済することができない」としていて、相続人との関係で受遺者を債権者としています。

その意味で、受益相続人よりも、対等乃至はそれ以上の権利が認められるべきであり、受益相続人が、賃料の管理等ができるのなら、受遺者としてもできて然るべしともいえるかと思います。
設問の場合、甲は相続人ですが、受遺者としての地位も有している訳なので、同様に考えることができるでしょう。

動産または債権について
ただ、平成10年判決は、動産又は債権についての「特定遺贈」又は「相続させる遺言」がされた場合の遺言執行者の権限・任務については、判例は何ら明らかにしていないとされており、この点はよく考えた上で判断することが必要です(平成10年判決判例解説233頁)。

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【コラム執筆者】
村上・新村法律事務所
弁護士 村上博一

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