遺言執行者⑩相続財産の占有・管理は誰が行うのか(問題の所在)

掲載日 : 2014年3月31日

設問
被相続人が不動産を有しており、その子として甲、乙がいました。
被相続人は、甲に不動産を遺贈乃至は相続させる旨の遺言を残していたにもかかわらず、被相続人死亡後乙が不動産を単独で占有し事実上管理をしていたとします。
当該遺言には遺言執行者が存在した場合、甲、乙、遺言執行者の関係はどうなるのでしょうか。

遺贈乃至は「相続させる」旨の遺言がなされた場合、被相続人が死亡した時点で不動産の権利は甲に帰属します。従って、不動産の実体法上の権利関係についていえば、権利者は甲であり、乙は無権利者として、その事実上の管理を解いて占有を返還する義務を有します。

ところが、ここに遺言執行者が入ってくることから、それぞれの権利義務が何らかの影響を受けるのではないかが問題になります。
例えば、当該不動産が収益物件であった場合、賃料の管理をしたり、乙に占有の明け渡しを求めるのは、甲、遺言執行者何れがすべきことでしょうか。

遺言執行者に対する期待と現実
相続の処理をする際には、遺産の調査、相続人・受遺者との連絡という事実行為、電気・ガス・水道等の新使用者への名義変更、準確定申告・相続税の申告、納税等の代行という事務といった広範、かつ、煩雑な事務が存在します。

そして、遺言者のみならず、その家族やその他相続債権者・債務者などの関係者からしても、こうした煩雑な事務を円滑に処理することが遺言執行者には期待されているのではないかと思われます(竹下『「相続させる」旨の遺言の最高裁判決は遺言執行者の関与を排除したものか』判タ823号28頁以下参照)。

そのような視点からすれば、応急的な処置として、とりあえず、賃料の管理をしたり、乙に占有の明け渡しを求めてみるといったことも、遺言執行者に期待されているといえるでしょう。

しかし、乙との間で紛争が生じた場合はどうでしょうか。この場合、訴訟等をした上で、乙から不動産の管理を取り戻さなければ、遺言執行は終了しないと解すると、その任務は想像以上に重くなります。遺言執行者に就任承諾する者が減ることも予測され、遺言執行制度の運用に困難をきたすことも考えられます。

そこで、相続財産の占有・管理について、最終的な義務を負う者は遺言執行者なのか、それとも受遺者乃至は受益相続人が対応すれば足りるのか、を検討しなければならないことになります。

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【コラム執筆者】
村上・新村法律事務所
弁護士 村上博一

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