遺言執行者⑧特定の動産・債権が遺贈された場合

掲載日 : 2014年3月29日

遺言執行とは具体的にどのようなことをするのでしょうか。
特定の動産・債権が遺贈(遺言によって無償で譲渡される場合、964条)を例として、説明します。

動産
動産の対抗要件は「引渡し」とされています(178条)。
このため、遺言執行者が受遺者に遺贈の対象たる動産の引渡しをする形で執行します。
当該動産が自らの元にある場合はその引渡しをすればいいのですが、第三者の元にあるときはどうなるでしょうか。

【第三者の手元にある場合】
指図による占有移転(184条)すなわち、その第三者に以後遺贈者のためにそのものを占有することを命じ、その第三者がこれを承諾する方法によることが多いと思われます。
典型としては、当該動産が倉庫業者等に預けられている例が挙げられますが、このような場合には問題は生じないでしょう。

しかし、例えば、その第三者が当該動産は預かっているのではなく自らの所有物であるとして、184条にいう「承諾」を拒むような場合はどうなるでしょうか。
遺言執行者として、訴訟を起こして当該動産の引渡し等を受け受遺者に渡さなければならないか(それまで遺言執行者の義務が続くか)どうかについては、後述する相続財産の占有・管理に関する遺言執行者の義務をどう考えるかであり、争いがあるところです。

債権
債権(譲渡)の対抗要件は「譲渡人が債務者に通知をし、又は債務者が承諾」すること(467条)です。
このため、遺言執行者としては遺贈の対象たる当該債権の債務者(※)に通常は「通知」をする形で執行することになるでしょう。
※講学上、これを第三債務者と呼ぶことが多いです。

ただ、この類型で一番多いのが預貯金債権でしょうが、これは通常「譲渡禁止」とされています(466条2項、この場合の第三債務者は預貯金の払い戻し義務のある金融機関となります。)。
そこで、遺言執行者としては「通知」ではなく第三債務者の「承諾」を得る方法、すなわち金融機関と合意をして名義の変更をする形か、預貯金を解約した上で受遺者に金銭を渡す形で、執行することになります。

遺言執行者をおくメリット
なお、判例上は「金銭その他の可分債権あるときは、その権利は法律上当然分割され各共同相続人がその相続分に応じて権利を承継する」とされていて(最1小判昭和29年4月8日民集8巻4号819頁以下)、預貯金(但し、定額郵便貯金を除く)についても同様です。

ですが、金融機関としては、誰が真実の相続人であるかを確実に知る術に乏しいこともあって、相続された預貯金を解約するには全相続人の同意書を求めるところが多いとされています(※)。

しかし、遺言執行者が存在する場合、前述したとおり「遺言執行者は、相続人の代理人とみなす」とされ「相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない」とされています(1015条、1013条)。
その結果、遺言執行者の判子だけで対応できる場合も多く、この点が遺言執行者を置く大きなメリットといえます。

  • 【定額郵便貯金】
    定額郵便預金については、昭和29年判例の趣旨は及ばず、最2小判平成22年10月8日判タ1337号114頁以下は「同債権は、その預金者が死亡したからといって、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはないものというべきである」としています。
    ですから、定額郵便貯金の場合、ゆうちょ銀行から全相続人の同意書を求める要望があればそれは法律上当然のものといえます。

その他、相続における預貯金の取扱いについては、以下を参照ください。
子供のいない夫婦の遺言③具体的な遺言の方法(預貯金)
遺産分割審判の対象となるもの②債権等(金銭債権・預貯金・株式・社債等)

   

【関連コラム】
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遺言執行者⑫相続財産の占有・管理は誰が行うのか(平成10年判決の射程範囲)

【コラム執筆者】
村上・新村法律事務所
弁護士 村上博一

事務所HP :
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