遺言執行者⑦遺贈不動産が第三者名義になっていた場合

掲載日 : 2014年3月28日

遺言執行とは具体的にどのようなことをするのでしょうか。
特定の不動産が遺贈(遺言によって無償で譲渡される場合、964条)されたにもかかわらず、遺贈の対象たる不動産の名義が第三者に移転していた場合を検討してみましょう。

当該不動産の所有権は遺言によって既に受遺者に移転しています。
このため、受遺者としては当該第三者に対して、直接自分(受遺者)に移転登記を行うことを求めることが出来るのではないかが問題になります。

この点、最2小判昭和43年5月31日民集22巻5号1137頁以下(以下、昭和43年判決といいます。)は、受遺者は遺言執行者を通じてしか、遺贈を原因とする移転登記を得られないという判断をしています。

つまり、先ずは被相続人の名義に登記を戻してから、遺言執行者が受遺者に遺贈を原因とする移転登記を行うことになります。

最2小判昭和43年5月31日判決

事案の概要
被相続人がその妹に不動産を遺贈したところ、被相続人の子(妹からみれば甥にあたります。)が登記を自己名義にしてしまいました。当該遺言には遺言執行者が存在するようにも思えたのですが、妹は子に対し直接遺贈を原因とする移転登記請求訴訟を起こしました。

1)遺贈を原因とする移転登記請求
昭和43年判決は、受遺者は遺言執行者を通じてしか、遺贈を原因とする移転登記を得られないと判断しています。
このため、妹の請求を認めた原判決を破棄して、遺言執行者が存在するかについての審理を尽くさせるべく原審に差し戻しました。

昭和43年判決
特定不動産の遺贈を受けた者がその遺言の執行として目的不動産の所有権移転登記を求める訴えにおいて、被告としての適格を有する者は遺言執行者にかぎられるのであって、相続人はその適格を有しない

2)移転登記の抹消登記請求
昭和43年判決は、その字句のとおり「遺贈を原因とする移転登記」を求める訴えについての判断です。当該事案において、妹が被相続人の子名義の登記抹消等を求めた場合、その訴えがどうなるかについては言及されていません。

この点、昭和43年判決の理解として、受遺者は遺言執行者を通じてしか遺贈を原因とする移転登記を得られないということは、その「裏面において」第三者に抹消登記等を求めることができるのは遺言執行者であるという説明があります(高橋「重点講義民事訴訟法上」有斐閣252頁)。
被相続人の名義に登記が戻らなければ、遺言執行者としても受遺者に遺贈を原因とする移転登記をすることができないということでしょう。

【遺言執行者の存在意義】
しかし、既に不動産の所有権は第三者(被相続人の子)に移転している以上、受遺者(妹)が自己の所有権を妨害する第三者名義の登記を排除してその抹消を行い、被相続人の名義に戻すように求めることは当然と思われます。
このように、遺言執行者のみならず、受遺者も当該第三者に抹消登記等を求めることができると解されます。

ただ、受遺者としてとしては、被相続人名義に戻った登記について、遺言執行者を通じてしか遺贈を原因とする登記を受けられません。そのように考えないと遺言執行者の存在意義がなくなってしまうからです。それを指摘したのが昭和43年判決という訳です。

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【コラム執筆者】
村上・新村法律事務所
弁護士 村上博一

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