遺言執行者④防衛的機能(処分行為の無効)

掲載日 : 2014年3月25日

遺言執行者を定めた場合、そこには防衛的機能があるとされています。
(吉野「遺言執行者の権限-『相続させる』旨の遺言を中心として-」登記研究576号17頁以下)。

すなわち、最1小判昭和62年4月23日判タ639号116頁以下(以下、昭和62年判決)では以下の判断がなされました。

  • 遺言執行者がある場合、受遺者以外の共同相続人が目的物について行った処分行為が無効になる。
  • 遺言執行者がある場合、受遺者は登記がなくても第三者に対抗できる。また、所有権に基づき、第三者が実行した競売の排除を求めることができる。
  • 遺言執行者として指定された者が就任を承諾する前であっても、「遺言執行者がある場合」にあたる。

最1小判昭和62年4月23日
以下、昭和62年判決をご紹介します。

事案の概略
被相続人が娘に遺言によって不動産を与えました(遺贈)。
被相続人にはその娘とは別に息子がおり、被相続人死亡後、息子が娘の相続放棄申述書を無断で作成する等して不動産を自己名義にした上で債権者のために根抵当権を設定しました。
後日その根抵当権が実行されたので、娘はその競売は許されないという申立をしました。

当該遺言には遺言執行者が存在したものの、息子による抵当権の設定が遺言執行者の就任前であったので、このような場合にも民法1013条が適用されるかを含め争われました。

【民法第1013条(遺言の執行の妨害行為の禁止)】
遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。

この点、昭和62年判決は、遺言執行者を定めた場合、1013条が適用される結果、第三者の設定した根抵当権は無効になるので、受遺者である娘は登記なくして第三者に対抗でき、第三者がした競売は許されないという判断をしました。

昭和62年判決
民法1012条1項が「遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。」と規定し、また、同法1013条が「遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。」と規定しているのは、遺言者の意思を尊重すべきものとし、遺言執行者をして遺言の公正な実現を図らせる目的に出たものであり、右のような法の趣旨からすると、相続人が同法1013条の規定に違反して、遺贈の目的不動産を第三者に譲渡し又はこれに第三者のため抵当権を設定してその登記をしたとしても、相続人の右処分行為は無効であり、受遺者は、遺贈による目的不動産の所有権取得を登記なくして右処分行為の相手方たる第三者に対抗することができるものと解するのが相当である…そして、前示のような法の趣旨に照らすと、同条にいう「遺言執行者がある場合」とは、遺言執行者として指定された者が就職を承諾する前をも含むものと解するのが相当であるから、相続人による処分行為が遺言執行者として指定された者の就職の承諾前にされた場合であつても、右行為はその効力を生ずるに由ないものというべきである

つまり、昭和46年判決によれば、受遺者としては登記を得ない限り、その権利を第三者に対抗できないのですが、遺言執行者がいれば他の相続人が処分行為をすることができないので、結果として第三者が登場する余地はなく、受遺者としては登記を得なくてもその権利を防衛することができるということです。

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【コラム執筆者】
村上・新村法律事務所
弁護士 村上博一

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