遺言執行者②受遺者の選定を遺言執行者に委託した遺言の効力

掲載日 : 2014年3月23日

遺言執行とは遺言の内容を実現することであり、これを行う者を遺言執行者といいます。

例えば、遺言できるとされている事項の一つとして、遺言で遺言執行者を指定し、又はその指定を第三者に委託することができるとしています(1006条1項)。
では、これと似たようなものとして、遺言で受遺者(遺言により遺贈を受けることとなっていた者)を誰にするか第三者に委託することはできるでしょうか。

従来の見解
明文で「できる」とはされていないところであり、、むしろ、受遺者の決定は遺贈者(遺言によって遺産を与える行為をする者)がすべきことであって、これを第三者に委託することは、「遺言の代理を許すのと異ならないので無効」と解されてきました(中川外(担当阿部)「新版注釈民法(28)〔補訂版〕」189頁)。

最3小判平成5年1月19日判決
ところが、最3小判平成5年1月19日民集47巻1号1頁以下(以下、平成5年判決)は、それまでの見解より緩やかに考えて、受遺者を誰にするか、その選定を遺言執行者に委託したとしても有効な場合があると判断しましたので紹介します。

平成5年判決の事案と最高裁に至るまでの経緯
Aには、妻がいましたが子はいませんでした。
Aは、昭和48年9月10日、遺言書と題し、「私の遺産全部は妻の所有とし…妻死去の際は遺産全部を特殊法人日本赤十字社に寄附」するという自筆証書遺言を書いていました。ところが、妻が同53年11月25日に死亡し、Aの法定相続人は、2人の妹だけになりましたが、後記本件遺言がされた時点では、長らく絶縁状態でした。
そこで、Aは、昭和58年2月28日、Bに遺言の執行を委嘱する旨の自筆による遺言証書(以下、本件遺言執行者指定の遺言書といいます。)を作成し、これをBに託するとともに、再度その来宅を求めました。
Aは、同年3月28日、その求めに応じてA宅を訪れたBの面前で、「一、発喪不要。二、遺産は一切の相續を排除し、三、全部を公共に寄與する。」という文言記載のある自筆による遺言証書(以下、本件遺言書といいます。)を作成して本件遺言をした上、これをBに託して、自分は天涯孤独である旨を述べました。
その後、昭和60年10月17日、Aが死亡したのでBが遺言執行者として本件遺言の執行をしようとしたところ、妹らから「当該遺言は無効であり、Bは当該遺言の執行者としての地位を有しない」旨の確認を求める訴えが提起されました。
これに対し、地裁、高裁の何れもが、Bが遺言執行者としての地位を有することを認めたので、これを不服とした妹らが最高裁に上告したものです。ちなみに、高裁は、本件遺言書につき「遺産全部を、国、地方公共団体に包括遺贈する意思…を表示したものである」として、これを有効と判断しました。

先ず、平成5年判決は、遺言は遺言者の意思を表明するものであり、この意思を尊重して遺言の趣旨を解釈すべきであるとして、遺言書の記載のみならず、遺言者が遺言作成に至った経緯や遺言作成時に置かれた状況等を考慮すべきとした一般論を展開しました。

なお、最高裁が説く遺言解釈一般論については、自筆証書遺言の要件②日付を参照ください。

平成5年判決
遺言の解釈に当たっては遺言書に表明されている遺言者の意思を尊重して合理的にその趣旨を解釈すべきであるが、可能な限りこれを有効となるように解釈することが右意思に沿うゆえんであり、そのためには、遺言書の文言を前提にしながらも、遺言者が遺言作成に至った経緯及びその置かれた状況等を考慮することも許される

次に、遺言書の内容やAが遺言書を作成した時の状況から、Aが遺産を公益目的のために役立てたいという意思を有していたことが明らかであるとされました。
また、①遺産を受ける相手を明示せず、②遺産が公共のために利用される旨の文言を用いていることから、高裁の認めた国や地方公共団体のみならず、より広く公の団体等に遺産の全部を遺贈する趣旨であると判断しました。

平成5年判決
本件遺言書の文言全体の趣旨及び同遺言書作成時のAの置かれた状況からすると、同人としては、自らの遺産を上告人ら法定相続人に取得させず、これをすべて公益目的のために役立てたいという意思を有していたことが明らかである。そして、本件遺言書において、あえて遺産を「公共に寄與する」として、①遺産の帰属すべき主体を明示することなく、②遺産が公共のために利用されるべき旨の文言を用いていることからすると、本件遺言は、右目的を達成することのできる団体等(原判決の挙げる国・地方公共団体をその典型とし、民法三四条に基づく公益法人あるいは特別法に基づく学校法人、社会福祉法人等をも含む。)にその遺産の全部を包括遺贈する趣旨であると解するのが相当である

平成5年判決が検討した問題点
平成5年判決が検討した問題点は2つありました。

寄與(寄与)」という言葉の解釈
遺言の場合「寄付」や「信託」ができます(一般法人法152条2項、信託法3条2項)。
ただし、本件遺言書中には「法人の目的、名称、事務所、資産及び理事の任免に関する規定等の記載を全く欠いていること、並びに他人をして一定の目的に従い財産の管理又は処分をさせる旨を表す記載が一切ないこと」から、「寄付」や「信託」とは考えられず(平成5年判決の原審判決理由参照)、下線①の事実等から、これを「(包括)遺贈」と考えたものと思われます。

遺贈の相手方が誰か
1)受贈者はどの程度限定されていたのか
事案の中で指摘しましたが、Aはかつて「私の遺産全部は妻の所有とし…妻死去の際は遺産全部を特殊法人日本赤十字社に寄附」するという自筆証書遺言を書いていました(これは、後継ぎ遺贈(※)といわれるものです。
※後継ぎ遺贈については、「精神的障害のある子供のいる人の遺言②相続における財産問題」を参照ください。)。

ところが、妻が先に死亡したので、本件遺言書を作成するに至ったのですが、そこでの「公共に寄與する」との文言と、かつての遺言の「日本赤十字社に寄付」するという文言は、必ずしも抵触しないので、かつての遺言が本件遺言書によって「撤回」された(1023条1項)とはいえない可能性があります。
だとすれば、高裁よりも狭く、日本赤十字社に対する「単純遺贈」として、受贈者を限定して解釈する余地もあったと思われます(伊藤平成5年判例解説ジュリスト1046号98頁以下)。
しかし、高裁が受遺者の範囲を国、地方公共団体としていたところ、最高裁は、それを、公益法人、学校法人、社会福祉法人等にまで広げました。つまり、より限定の度合いを低め、それにも拘わらず、限定としては十分とした訳です。

平成5年判決
本件遺言執行者指定の遺言及びこれを前提にした本件遺言は、遺言執行者に指定した被上告人(B)に右団体等の中から受遺者として特定のものを選定することをゆだねる趣旨を含む」とした上で、「本件においては、遺産の利用目的が公益目的に限定されている上、被選定者の範囲も前記の団体等に限定され、そのいずれが受遺者として選定されても遺言者の意思と離れることはなく、したがって、選定者における選定権濫用の危険も認められないのであるから、本件遺言は、その効力を否定するいわれはない

2)はたして受贈者(被選定者)の「限定」がされているのか
本件遺言に被選定者の「限定」があるのかについては若干疑問がありますが、その意味で平成5年判決を問題視する見解(新井平成5年判例解説「家族法判例百選[第7版]」有斐閣174頁以下)があります。
その一方で、遺言者としては、「誰でもよい公共のために遺産を使って貰いたいというものであろうから、遺贈の相手方をある程度具体的に記述せよと要求することは困難を強いるものであり、せっかくの遺言者の志をふいにしかねない」として、むしろそれを支持する見解もあります(半田平成5年判決解説ジュリスト1042号117頁以下)。
この点については評価が分かれるところでしょうが、これまで、このような遺言については下級審で判断が分かれていた点を考えると、平成5年判決が広くこれを有効とする判断をしたことは、司法政策的に大きな方向性を示そうとしたものと思われます。「迷わず有効と解してもかまわない」と号令をかけた訳です。伊藤教授は皮肉を込めて「実務現場への素晴らしい贈り物」と称しているようですが(前掲伊藤100頁参照)、実務の指針が明らかになることは良いことなので、その言葉どおり素直に肯定的に考えてもかまわないかと思われます。

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【コラム執筆者】
村上・新村法律事務所
弁護士 村上博一

事務所HP :
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