同時履行の抗弁権とは?成立要件と具体例

掲載日 : 2014年3月18日

同時履行の抗弁権とは
「同時履行の抗弁権」とは、双務契約において当事者間の公平を図る趣旨から認められる権利であり、民法第533条において「双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができる」と規定されています。

例えば、「AさんがBさんに対して、自分の所有する土地を1000万円で売った」という売買契約の例で見ると、Bさんが1000万円を支払うまでは、Aさんは売買の目的物である土地をBさんに渡すこと(登記をBさんに移すこと)を拒むことができるという権利です。

同時履行の抗弁権の成立要件
同時履行の抗弁権の成立要件について、まず、民法第533条の文言から以下の①②が要件となります。
さらに、民法第533条ただし書きは、「ただし、相手方の債務が弁済期にないときは、この限りでない」と定めていますので、以下の③も要件となります。

  • 「双務契約から生じた相対立する債務であること」
  • 「相手方が自己の債務の履行の提供をせずに履行を請求してきたこと」
  • 「相手方の債務が弁済期にあること」

以下、各要件について簡単に説明します。

双務契約から生じた相対立する債務
まず、①「双務契約から生じた相対立する債務」という要件について、上記の例で見ると、AさんとBさんとの間で成立した売買契約から生じた「AさんがBさんに対して土地を渡す(登記をBさんに移す)債務」と、「BさんがAさんに対して1000万円を支払う債務」が、「双務契約から生じた相対立する債務」となります。

ここで、双務契約とは「契約当事者の双方に対価的な関係のある債務が発生する契約」をいい、売買契約、賃貸借契約、請負契約などがこれに当たります。契約の締結によって、当事者のそれぞれが相手方に対して債務を負担する契約、ということです。
例えば自動車が故障して修理会社に修理に出した(請負契約)というケースについてみると、契約の締結によって、修理会社は「自動車を修理して所有者に引き渡す」という債務を負い、自動車の所有者は「修理会社に修理代金を支払う」という債務を負うことになります。この2つの債務が「双務契約から生じた相対立する債務」となります。
他方、贈与契約など、契約当事者の一方のみが債務を負う契約を片務契約といいますが、片務契約においては、そもそも当事者の一方にしか債務は発生しないので、同時履行の抗弁権は成立しません。

相手方が自己の債務の履行の提供をせずに履行を請求してきたこと
次に②「相手方が自己の債務の履行の提供をせずに履行を請求してきたこと」という要件について、上記の例で見ると、Aさんが土地の登記をBさんに移すための書類を渡そうとせずに、Bさんに対して「その前に、まず1000万円を支払え」と請求した場合がこれに当たります。
これに対して、Aさんが登記をBさんに移すために必要な書類を持ってきて、Bさんに、「書類を渡すから、1000万円を支払え」と請求した場合は、Aさんは自己の債務について「履行の提供」をしているので、Bさんは同時履行の抗弁権を主張することはできません。

この要件が問題になるケースとしては、例えば、Bさんが代金1000万円を持ってきたが、数えてみると999万9000円しかなく、1000円足りなかった、というような場合、Aさんが「1000万円全額を支払うまで、登記移転のための書類は一切渡せない。」と同時履行の抗弁権を主張して書類の引渡しを拒むことができるか、というような場面や、BさんがAさんから2筆の土地を購入したとして、Aさんが1筆の土地の分しか登記移転のための書類を持って来なかった場合、Bさんは同時履行の抗弁権を主張して2筆分全額の支払いを拒めるか、といった場面が考えられます。

相手方の債務が弁済期にあること
最後に③「相手方の債務が弁済期にあること」という要件についてですが、上記の例で、例えばAB間で「土地の登記は先に移して、代金は3日後に払うこととする」という約束がある場合には、Bさんは1000万円を支払うことなくAさんから登記の移転を受けることができ、Aさんは「1000万円と引換でないとBさんに登記は移さない」と同時履行の抗弁権を主張することはできない、ということです。
不動産売買のケースでこのような特約は考えにくいですが、日常的に行われる売買においては、代金が後払い、先払いと定められているケースが多々あります。そのような場合には、当然のことですが、同時履行の抗弁権を主張することはできません。

以上、同時履行の抗弁権の要件について簡単に説明しました。
冒頭にも書きましたが、同時履行の抗弁権は「当事者間の公平」を図るための権利です。したがって、どのような場面で同時履行の抗弁権を認めるのが当事者間において公平か、という考え方が重要になります。

例えば、上記要件②の説明の中で「BさんがAさんから2筆の土地を購入したとして、Aさんが1筆の土地の分しか登記移転のための書類を持って来なかった場合」という例を挙げましたが、この場合、2筆の土地が一体として利用されるもので、1筆だけでは利用価値がないというような事情があれば、当事者間の公平という観点から、Bさんに、「2筆分全部の登記移転と引換でなければ、代金は一切支払わない」という同時履行の抗弁権を認めるのが相当と考えられるでしょう。他方、2筆の土地がまったく別個の土地で、1筆だけでも利用に支障はないというような事情があれば、Bさんは、Aさんが履行の提供をしてきた1筆分については代金の支払いをするべきであり、履行の提供がない1筆分についてのみ同時履行の抗弁権を主張して支払を拒める、という考え方が公平と考えられることもあるでしょう。

当事者間の公平という観点から同時履行の抗弁権の要件を見てみると、それぞれの要件の内容が理解しやすいのではないかと思います。

【コラム執筆者】
中本総合法律事務所
弁護士 宮崎慎吾