動機の錯誤による相続放棄の無効

掲載日 : 2014年3月11日

相続放棄については、撤回はできませんが、錯誤による無効の主張が認められています。
よく主張されるのは、相続放棄の動機に錯誤(動機の点で勘違い)がある場合であり、以下を挙げることができるでしょう。

  • 兄が母の面倒をみると思ったので母妹が相続放棄して父の自宅を兄のみに相続させたにもかかわらず、兄が母の面倒をみなかった場合
  • 父には負債しかないと思って母・兄妹共に相続放棄したところ、負債を遥かに超える遺産があった場合
  • 母に父の自宅を相続させようと兄妹が相続放棄したところ、父の子である兄妹が「初めから相続人とならなかったもの」とされる(939条)結果相続順位(889条)によって、これまで会ったこともない父の弟(叔父)がでてきて母と共に相続人になってしまった場合

原則:主張は認められない
以上の場合、相続放棄をするという意思はあるので、原則として95条による動機の錯誤無効の主張は許されません。

例外:動機が表示された場合
しかし、判例は動機が表示された場合、例外として95条の無効主張を認めますので、このような判例理論が適用されるのかが問題になります。

この点、相続放棄は相手方のいない単独行為ですが、それに利害関係を有する者がいる場合があります。
相続放棄は「家庭裁判所に申述」という形式によって行いますが、その書類には「放棄の理由」を述べるところがあります。そこへの記載等を通じて動機が利害関係人に表示等されているならば、相続放棄の錯誤無効の主張は認められるとした判例がでてきたことは注目されます。

※参考判例

  • ②と同じく遺産の構成〈大きさ〉に錯誤があった例につき、福岡高判平成10年8月26日判時1698号83頁以下
  • ③と同じく放棄による相続分の行方に錯誤があった例につき、東京高判昭和63年4月25日高等民集41巻1号52頁以下

その他、相続放棄と錯誤無効については、小林「錯誤法の研究〈増補版〉」酒井書店643頁以下、安永「最新判例批評」判例評論360号21頁以下が、参考になります。

このような事情が存在するのであれば、相続放棄の錯誤無効の主張は、上記②や③の事例については認められる場合もあるのではないかと思われます。
ただ、上記①の事例については、それが動機の錯誤であることに加え、95条本文の「要素」性を充たすのか、充たすとしても「重大な過失」にならないか(95条ただし書)等、ハードルも高いので難しい場合も多いかと思います。

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【コラム執筆者】
村上・新村法律事務所
弁護士 村上博一

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