相続放棄ができない場合~相続財産の処分②動産の処分と祭祀

掲載日 : 2014年3月3日

相続財産を勝手に処分した場合は法定単純承認をしたものとみなされ、相続放棄をすることができなくなる、または相続放棄が無効となる可能性があるため、注意が必要です。
※この場合の処分は相続放棄をする前後を問いません。

ただし、相続財産の処分に関する規定をあまりに厳密に適用すると、故人の衣類や日用品といった細々した遺品も捨てることができなくなってしまいます。
そこで、「処分」行為といっても、動産の処分や祭祀については、若干、緩やかに考えられる場合があります。

動産の処分
動産は、現金化(換価)が難しい場合も多く、仮にそれが出来たとしても低額に終わることも多いです。
「処分」がなされると、限定承認すら許されなくなって、単純承認という結果を招いてしまう以上、その対象は「一般経済価値」のあるものであることが必要と解されます。

そのような視点も踏まえ、「形見分け」程度のものであれば、921条1号にいう「処分」にあたらないとも解されています(松倉「単純承認とみなされる場合」判タ688号19頁以下)。

1)衣類
となると、特に「衣類等」については、それほどやかましく考える必要もないのではとも思われますが、現実はそうともいえません。

  • 大判昭三・七・三新聞二八八一号六頁
    衣類二、三点の形見分けでも「一般経済価額ヲ有スルモノハ…相続人ニ於テ之ヲ他人ニ贈与シタルトキハ」単純承認になると判示した。
    物の豊富な現代には通用しない過去の判例である、とする頼もしい見解もあります(伊藤「相続法」有斐閣233頁)が、それ以降でも以下のような判断があります。
  • 松山簡判昭和52年4月25日判時878号95頁以下
    和服十五枚、洋服八着、ハンドバック四点、指輪二個を…引渡した行為は…相続財産の重要な部分を占める、として「処分」にあたるとしました。
  • 東京地判平成12年3月21日判タ1054号255頁以下
    921条3号の「隠匿」にあたるかが争われたのですが、スーツ、毛皮のコート3着、カシミヤ製のコート3着その他残っていた洋服や靴(100足程度であまり使用されず)のほとんど、絨毯、鏡台を持ち帰ったという事案について、「一定の財産的価値を有する…遺品のほとんどすべてを持ち帰っている」として法定単純承認を認めました。

②、③について、法定単純承認されたかどうか争われた相続債務額としては、前者が10万円程で後者が23万円程です。その程度の額であるが故、法定単純承認も認められ易かったというような事情もあるのかもしれませんが、それを認めた理由としては「価格」よりも「量」が重視されているようですので、やはり注意が必要です。

祭祀

  • 大阪高決昭和54年3月22日家月31巻10号61頁以下
    遺産の一部から火葬費用、被相続人の治療費を支払うことは、921条1号にいう「処分」にあたらないとされています。
  • 大高決平成14年7月3日家月55巻1号82頁以下
    ①の関連として位置づけられるのでしょうか、相続人が、葬儀、仏壇、墓石に関する費用の一部として遺産である貯金を解約して302万円を支払ったのですが、被相続人が死亡してから3年半経過して、信用保証協会から約5,900万円の求償債務の存在を知らされたという事案について、相続放棄を認めた判断は注目されます。

いずれにせよ、「処分」に該当するか否かは微妙な判断が必要となる場合もあるため、相続放棄にあたっては、原則通り故人の遺品などに手を付けないで、相談される方が良いでしょう。

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【コラム執筆者】
村上・新村法律事務所
弁護士 村上博一

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