相続放棄ができない場合~相続財産の処分①債権の取り立て

掲載日 : 2014年3月2日

相続財産を勝手に処分した場合は法定単純承認をしたものとみなされ、相続放棄をすることができなくなる、または相続放棄が無効となる可能性があるため、注意が必要です。
※この場合の処分は相続放棄をする前後を問いません。

相続財産の処分と相続放棄
相続人が被相続人の財産のすべてを相続する場合を単純承認といい、これに関しては特に手続きを経る必要はありません。

民法921条1号は、「相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき」は「単純承認をしたものとみなす」としています(法定単純承認)。
また、熟慮期間中といえども、そのような「処分」があれば、相続放棄はできなくなります。

では、法定単純承認としての「処分」とはどのようなものなのでしょうか。
921条1号は、「ただし、保存行為及び第602条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない」としており、これとの関連も問題になります。

相続財産の保存・管理
先ず、相続人は、相続の承認又は放棄をする前であったとしても(※)、相続財産を「管理」することが出来ます(918条1項)。
※固有財産におけるのと同一の注意義務をもってという限界はあります。
ですから、相続財産の「管理」をしたところで、それが法定単純承認事由としての「処分」があったとはいえない筈です。

一般的に、保存(行為)とは管理(行為)より狭い概念と考えられていますが、921条1号ただし書きにいう「保存行為」とは、そのような狭い意味での保存行為とは異なって「全体としての相続財産を保存するために必要となる個々の処分行為を含む」と解されます。
例えば、921条1号ただし書にいう「保存行為」として腐敗しやすい個々の物の処分換価は許され相続財産全体の現状維持は許されることになります(松原「法定単純承認」判タ1100号312頁以下)。

債権の取り立て
以上を前提にすると、相続人が被相続人の有していた債権を取り立てて受領する行為がどのように取り扱われるか問題になります。

  • 最1小判昭和37年6月21日・判タ141号70頁
    被相続人の有していた昭和32年当時で金3,000円(現在の消費者物価指数に換算すると約1万6,300円程)の売掛金を取立てて収受領得した点につき、民法921条1号にいう「処分」があったとして、相続人が右債権を如何ように処置したか否かは審究するまでもないとしました。
  • 東地判平成10年4月24日判タ987号233頁以下
    被相続人の有していた収益不動産から上がる賃料を被相続人の経営していた会社口座から相続人個人口座に変更することは、民法921条1号の「処分」にあたるとしたものがあります。

②の東京地裁が理由として述べるところは、このような口座変更処理がされるとその事情を知らない相続人の債権者が相続財産としての賃料を差し押さえるといった事態の発生もあり得るという点にあります。

ですから、相続といった事態が生じた場合に、一時の保存行為にあたると安易に考え、軽率に動かないようにすることが大切です。

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【コラム執筆者】
村上・新村法律事務所
弁護士 村上博一

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