相続放棄の熟慮期間の始期④特別な事情がある場合~認められる要素~

掲載日 : 2014年3月1日

最2小判昭和59年4月27日(昭和59年判決)は、相続人が相続財産の全部または一部の存在を認識した時から熟慮期間を開始する、とした例外を認めました。
この例外規定を適用するためには、「相続財産が全くないと信じたことについて相続人に相当な理由がある」ことが必要とされています。

では「(相続財産が全く存在しないと)信ずるについて相当な理由がある」かの判断は、どうすべきでしょうか。
結局、昭和59年判決がいうとおり、「被相続人の生活歴、被相続人と相続人との間の交際状態その他諸般の状況からみて」判断することになるかと思います。

最2小判昭和59年4月27日の概要
昭和59年判決の事案の概要は、次のようなものです。

Aは、Bに貸金債権を有していたところ、これをCが連帯保証していたので、Cに対し訴えを提起しました。第一審で、Cは敗訴判決を受けましたが、その後まもなくCが死亡、訴訟は中断しました。

Cの子Dらは、長期間交渉断絶の状態で、Cの生活ぶりを知らなかったため、この第一審訴訟の存在を知らないまま、Aの資産は全くないと誤信し、相続についての手続もとらず放置していました。
Cの死亡後1年近く経過してから、やむなく、第一審裁判所は、Dらに訴訟を受継させて第一審判決を送達したところ、Dらが、第一審判決に控訴すると共に相続放棄の申述をしたというものです。

Cは、Dらが家出してから約10年後に連帯保証債務を負担し、その3年後に死亡したものです。
長期間の交渉断絶後に親が交わした連帯保証債務の存在など、子が知る由もありません。Cは、生活保護を受けていたようで、死亡後は、葬儀も行われず、遺骨は寺に預けられたままでした。

このような事案では、問題なく「相続財産が全く存在しないと信ずるについて相当な理由がある」ということになるかと思います。

特別な事情がある場合として認められる要素
昭和59年判決の事案を目の前にすると「別居が重要な要素」となる(遠山「相続放棄申述の熟慮期間」判タ1100号307頁)ようにも思えますが、最近は同居の夫婦間でも互いの財産状況を明らかにしない場合が増えています。
特に共稼ぎの場合はそのようなことが多いでしょうし、専業主婦の場合でも夫が財布の紐を握っている場合妻にはその詳細はわからないことが多いようです。

だとすれば、単に「別居」といった事実だけでなく「その他諸般の状況」から柔軟に判断してもいいのではないかと思われます。

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【コラム執筆者】
村上・新村法律事務所
弁護士 村上博一

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