相続放棄の熟慮期間の始期③特別な事情がある場合の解釈

掲載日 : 2014年2月28日

最2小判昭和59年4月27日(昭和59年判決)は、以下の3つ条件を満たす場合、例外として相続人が相続財産の全部または一部の存在を認識した時から熟慮期間を開始するとしました。

  • 被相続人に相続財産が全く存在しないと信じていた。
  • 被相続人の生活歴、被相続人と相続人との間の交際状態その他諸般の状況からみて、相続人に対し相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情がある。
  • 相続財産が全くないと信じたことについて相続人に相当な理由がある。

それは、相続法の建前を前提としながら、妥当な結論を導こうとするもので評価できますが、それでは狭すぎるのではないかと思われます。

昭和59年判決
例えば「相続財産が全く存在しない(と信じた)場合」の解釈としては、以下の場合が考えられます。
(ⅰ)積極・消極財産がない場合
(ⅱ)積極財産なし、消極財産500万円
(ⅲ)積極財産500万円、消極財産500万円

昭和59年判決が例外として認めている場合は、「(ⅰ)の場合に限られる」と解されていました(昭和59年判決判例解説206頁)。

相続開始3か月経過後の相続放棄を認める高裁判断
しかし、その後、相続人が相続開始時において相続財産の存在していることは知っていたが、自らはこれを承継することはないと信じていた場合について、相続開始三か月経過後の相続放棄を認める高裁判断が出てきました。

  • 東京高決平成12年12月7日判タ1051号302頁以下
    被相続人が生前特定の相続人に遺産の全部を相続させる旨の遺言書を作成していたため、相続財産を承継することはないと信じていた他の相続人
  • 名古屋高決平成11年3月31日家月51巻9号64頁以下
    被相続人から生前贈与を受け、かつ、共同相続人間で他の相続人が被相続人の跡をとる旨の話し合いがされていたため、自己が相続すべき財産はないと信じていた相続人

このような高裁の判断は「自己が相続取得若しくは承継すべき相続財産がない」ことの誤認を問題にしており、昭和59年判決の予定したところを超えています(以上、遠山「相続放棄申述の熟慮期間」判タ1100号306頁以下)。
ただ、このような判断に従えば、上記(ⅱ)(ⅲ)の場合も同様に熟慮期間の例外的な取り扱いがなされることになるでしょう。

とはいえ、前述したとおり、相続という偶発的な事実をもって被相続人の債権者に棚ぼた的利益を与えるのは不当と考えると、その結論は、相続財産に関する相続人の調査義務の程度を低め、熟慮期間の例外を広く認めていくもので、好ましいものと思われます。

そうなると、上記高裁判例よりも更に広く「格別見るべき相続財産がない」場合や「めぼしい相続財産がない」場合と信じた時でも、熟慮期間の開始日をずらし、債権者から請求を受ける等して相続人が相続債務を含む相続財産の全部または一部を認識した時または通常これを認識できるはずの時から、3か月を起算するのが妥当ではないかと思います(前掲遠山307頁)。

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【コラム執筆者】
村上・新村法律事務所
弁護士 村上博一

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