相続放棄の熟慮期間の始期②特別な事情がある場合とは

掲載日 : 2014年2月27日

相続放棄の熟慮期間の始期は原則として、自己のために相続の開始があったことを知った時となります。すなわち、①相続開始の原因の事実を知り、②自己が法律上の相続人になった事実を知った時から3か月以内に相続放棄を行う必要があります。

ところが、熟慮期間には相続財産がないと信じ何もしないでいたところ、熟慮期間経過後に債権者から請求を受ける等して多額の借金が判明する等、相続人の生活を脅かすケースも増加してきました。
このため、このような原則を徹底し、熟慮期間の起算点を「相続開始原因事実」並びに「自己が相続人になった事実」を知った時に限ってしまうと、不都合が生じる場合があります。

そこで、この3か月の熟慮期間の始期については、「特別な事情がある場合」には、その時期を遅らせられないかが検討されていきました。

特別な事情がある場合とは
先ず、最2小判昭和59年4月27日(昭和59年判決)は、以下の3つ条件を満たす場合、例外として相続人が相続財産の全部または一部の存在を認識した時から熟慮期間を開始するとしました。

  • 被相続人に相続財産が全く存在しないと信じていた。
  • 被相続人の生活歴、被相続人と相続人との間の交際状態その他諸般の状況からみて、相続人に対し相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情がある。
  • 相続財産が全くないと信じたことについて相続人に相当な理由がある。

【昭和59年判決の判断】
昭和59年判決は、被相続人の債務は、あくまでも被相続人自身の債務であって、相続人の意思の作用によって、つまり相続人が相続を承認した場合にのみ相続人に承継されるべき、という考えを基本にしています。(昭和59年判決金判697号3頁以下〈最高裁〉判例解説〈昭和59年民事篇〉193頁、202頁)。)。

とはいえ、条文上は、「相続人は、相続の承認又は放棄をする前に、相続財産の調査をすることができ」三箇月で不十分であれば「この期間は、利害関係人…の請求によって、家庭裁判所において伸長することができ」ます(915条1項ただし書、同条2項)。
つまり、上記不都合は、十分な調査をしないまま熟慮期間を経過させた相続人の落ち度によるものというのが、法の建前になっています。

そこで、昭和59年判決は、法の建前を踏まえ、以下の①により原則論を述べた上で、例外的なものとして②のように判断しました。

昭和59年判決①
相続人が、相続開始の原因たる事実及びこれにより自己が法律上相続人となつた事実を知つた場合には、通常、右各事実を知つた時から三か月以内に、調査すること等によつて、相続すべき積極及び消極の財産(以下「相続財産」という。)の有無、その状況等を認識し又は認識することができ、したがつて単純承認若しくは限定承認又は放棄のいずれかを選択すべき前提条件が具備されるとの考えに基づいている

積極財産:金銭的価値のある財産、プラスの財産
消極財産:負債の部分である財産、マイナスの財産

昭和59年判決②
相続人が、右各事実を知つた場合であつても、右各事実を知つた時から三か月以内に限定承認又は相続放棄をしなかつたのが、被相続人に相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、被相続人の生活歴、被相続人と相続人との間の交際状態その他諸般の状況からみて当該相続人に対し相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があつて、相続人において右のように信ずるについて相当な理由があると認められるときには、相続人が前記の各事実を知つた時から熟慮期間を起算すべきであるとすることは相当でないものというべきであり、熟慮期間は相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべき時から起算すべきものと解するのが相当

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【コラム執筆者】
村上・新村法律事務所
弁護士 村上博一

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