相続放棄の熟慮期間の始期①いつから期間を計算するのか

掲載日 : 2014年2月26日

相続放棄とは、自己のために開始した相続の効果を、確定的に消滅させる意思表示です。
「相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない」とされていて(915条1項)、相続放棄をすると「その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす」とされています(939条)。

熟慮期間の始期
相続放棄は「自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内」にしなければなりません。
この三箇月間を熟慮期間といいますが、問題は「何を」知った時からその期間を計算するかです。

文言解釈をすれば「自己のため」の「相続開始」を知った時ということになります。

  • 相続開始の原因の事実を知った時
    相続は「死亡によって開始する」のが原則(882条)ですので、被相続人の死亡といった「相続開始原因事実」を知ることが必要です。
  • 自己が法律上の相続人になった事実を知った時
    ただ、①だけではなく「自己のため」の相続であることが求められていますので、「自己が相続人になった事実」を知ることも必要です。

887条乃至890条によれば、相続人には相続権の優先順位があり、子が第一順位、直系尊属(父や母など)が第二順位、兄弟姉妹が第三順位となっています。なお、配偶者は常に相続人となります。
そこで、熟慮期間の開始時期については相続人が配偶者または子である場合と、直系尊属や兄弟姉妹である場合とに分けて以下検討してみます。

配偶者または子
相続開始の原因の事実とは、被相続人の死亡した事実をいいます。
配偶者や子は、被相続人の死亡と同時に相続人となるため、自分が法律上の相続人になった事実を知るのも被相続人の死亡時となります。

このため、相続人が配偶者または子である場合、熟慮期間は被相続人の死亡の事実を知った時から開始することになります。

直系尊属や兄弟姉妹
相続開始の原因の事実が、被相続人が死亡した事実を知ったことが必要なのは上記と同じです。
ただし、直系尊属や兄弟姉妹の場合、自分が法律上の相続人となった事実を知った日は、被相続人の死亡時と必ずしも一致するとは限りません。

1)被相続人に子がいない場合
直系尊属の相続権は第二順位ですので、相続人に第一順位の子がいない場合、被相続人の死亡と同時に相続人になります。また、兄弟姉妹の相続権は第三順位ですので、それよりも先順位の子や直系尊属がいないときに被相続人の死亡と同時に相続人になります(889条1項)。
このように、被相続人に子がいない場合においては、自分が法律上の相続人となった事実を知るのは、被相続人に子がいないこと及び被相続人の死亡した事実を知った時となります。

2)被相続人に子があり、相続放棄をした場合
被相続人に子がいる場合、被相続人が死亡しても、後順位の相続権をもつ直系尊属や兄弟姉妹がすぐに相続人となることはありません。
例えば、直系尊属は子が相続放棄をした場合に初めて相続人となります。
すなわち、被相続人の死亡した事実に加え、先順位である相続人が相続放棄をしたことを知った時が自分が法律上の相続人となった事実を知った時となり、その時点から熟慮期間が開始することとなります。

先順位の相続人が相続放棄をしても、これが後順位の相続人に通知する規定はありません。このため、後順位の相続人は先順位の相続人が相続放棄をした事実を知らないことが多く、債権者からの請求を受けて初めて知ることがよくあります。

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【コラム執筆者】
村上・新村法律事務所
弁護士 村上博一

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