相続回復請求権と共同相続人⑤遺産分割協議

掲載日 : 2014年2月25日

共同相続人による他の相続人に対する侵害について、昭和53年判決(最大判昭和53年12月20日)は、884条の消滅時効の利益を享受できる侵害者を限定し、消滅時効を援用できる場合を定めました。

現実には、相続後も相続財産の登記が済ませていない場合等においては、相続財産の侵害者に対して遺産分割協議を申入れる局面もあるかと思います。
この点、遺産分割協議については、共同相続人はいつでもその協議を申し入れることができ、時効にかからないとされています(907条1 項)。

すると、遺産分割協議の申入れは、907条1項の定めるとおり「いつでも」可能で時効消滅しないのか、それとも884条の相続回復請求権に対する消滅時効に服するのか問題になります。

昭和53年判決の判例解説によれば「遺産分割協議は実質的に相続回復請求」であるとして、遺産分割協議申入れについても884条の消滅時効の援用は認められるとのではないかとされています。
ところが、このような結論は不当であるとして、むしろ、最高裁の多数意見に対する少数意見として、そもそも「共同相続人には884条は適用されない」というものがありましたので、参考までに紹介したいと思います。

1)藁の上の養子の真実の親との相続関係
甲夫婦(以下、単に甲といいます。)間に、子乙が生まれました。ただ、既に子丙がおり、子のない丁夫婦(以下、単に丁といいます。)に懇願されたこともあって、乙を丁の子として届け出たとします。
この場合、乙は、丁との関係では藁の上の養子にあたり、丁の子ではないので丁の相続人にはなりません。他方、乙は、甲との関係では子になるのでその相続人にはなります。

相続回復請求権の消滅時効を援用できる場合

2)真実の親の死亡と相続の発生
甲には所有していた自宅(以下、本件建物といいます。)がありました。
甲死亡後も本件建物の登記名義を甲のままにして、丙が本件建物に住み続けていた場合はどうなるでしょうか。前述したとおり、乙も甲の相続人ですから、本件建物は乙丙の共有(898条)の状態にあることになります。

3)遺産分割協議と884条の消滅時効の援用との関係
907条1項によれば、乙は、共同相続人として「いつでも」遺産分割協議の申入れ等をすることが出来る筈です。
この場合、丙が884条の消滅時効の援用が出来るかどうかが問題になります。

この点、乙の遺産分割請求の内容は、以下になります。
①被侵害者が遺産分割請求の資格すなわち相続持分権を有することの確定を求める
かつ
②被侵害者を含む共同相続人の共有状態にあることが確定された相続財産につき分割を求める

①の部分は相続権の確定を求めるという意味で、「実質的に相続回復請求であり、要するに遺産分割請求といっても相続回復請求を含むことがある」とされています(昭和53年判決判例解説585頁以下)。

従って、この昭和53年判決の判例解説の見解によれば、甲が死亡してその相続が開始した後、丙が、自らのみがその相続人として本件建物の占有をし続け5年間が経過している場合は、884条の消滅時効を援用して、乙からの遺産分割協議の申入れ等を拒むことが出来ることになります。

4)昭和53年判決の多数意見に対する少数意見
このような結果を認めることは、907条の趣旨等に反するとして、昭和53年判決の多数意見には少数意見が付されています。
※昭和53年判決は、共同相続人丙は他の共同相続人乙の存在を知りながら丙単独名義の登記をしたため、最終的には丙の884条の消滅時効の援用権を否定していますので、結論的には全員一致でした。

裁判官15人のうち9人対6人で意見が分かれ、その少数意見は「共同相続人には884条は適用されない」という意見でした。
この点、少数意見は共同相続人丙については884条の適用を否定し(た結果、消滅時効の援用権も否定し)ていますが、下図の表見相続人(全くの無権利者)Cに対しては884条の適用を肯定し(た結果、消滅時効の援用権を肯定し)ています。

相続回復請求権の関係図

ただ、血縁関係からみた場合、Cは全くの無権利者です。
何故、このCについてだけ短期消滅時効の利益を与えるのかという点について、少数意見は「バランスを失する」とされています(内田「民法Ⅳ親族・相続」東京大学出版会439頁)。

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【コラム執筆者】
村上・新村法律事務所
弁護士 村上博一

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