相続回復請求権と共同相続人④具体例

掲載日 : 2014年2月24日

共同相続人に対しても884条が適用されますが、昭和53年判決(最大判昭和53年12月20日)は、以下の2つの場合にあたる者だけが、相続回復請求権の消滅時効を援用できると判断し、実務的にもこれに沿った運用がされています。

  • 侵害者が他の相続人の相続権を侵害していることを知らない場合
  • 他の相続人の相続権を侵害していないと信じる合理的な事由がある場合

以下、具体例を挙げて解説していきたいと思います。

消滅時効を援用できる場合
1)藁の上の養子の真実の親との相続関係
甲夫婦(以下、単に甲といいます。)間に、子乙が生まれました。ただ、既に子丙がおり、子のない丁夫婦(以下、単に丁といいます。)に懇願されたこともあって、乙を丁の子として届け出たとします。
この場合、乙は、丁との関係では藁の上の養子にあたり、丁の子ではないので丁の相続人にはなりません。他方、乙は、甲との関係では子になるのでその相続人にはなります。

相続回復請求権の消滅時効を援用できる場合

2)真実の親の死亡と相続の発生
ただ、このような事情を丙があずかり知らないことはありえることで、甲死亡の際、その所有していた自宅(以下、本件建物といいます。)を相続したとして、本件建物の登記名義を丙単独名義に変更し、本件建物に住み続けていたとします。
この場合、甲の相続人は乙、丙であり、本件建物の登記も乙と丙が2分の1ずつを共有するというのが真実の姿です。
※「子が…数人あるときは、各自の相続分は、相等しい」(900条4号)

相続の結果、乙は相続により不動産に関し、2分の1の権利を取得しています。
にもかかわらず、丙単独名義の登記があるというのは間違っているので、乙は丙に対し共有権に基づく物権的請求権として、その登記抹消を請求する、或いは、登記名義を乙丙の共有名義に更正せよ(「改めよ」という意味です。)という請求をすることができます。

では、このような乙の請求に対し、丙が相続回復請求権に関する消滅時効(884条)を援用することができるでしょうか。

3)884条の消滅時効の援用の可否
今回具体例において検討している丙は、乙の存在について、これを知らないこともあり得ますし、甲・丙の戸籍からも窺い知れないので、これに気付かないことも尤もだという合理的な事情が存在することも多いでしょう。
このため、他の相続人の相続権を侵害していないと信じる合理的な事由(※)がある場合に該当し、丙が884条の消滅時効を援用できる可能性が高いと思われます

※合理的な事由
相続回復請求権と共同相続人②主観的事情

消滅時効を援用できない場合
1)昭和53年判決の概要
相続回復請求権に関する消滅時効を援用することができるかという点に関する判断をしたのが、昭和53年判決であり、この判決の事件の概要について、前記事案になぞらえて簡略化すると次の通りとなります。

共同相続人である丙が、他に共同相続人として乙がいることを知りながら、これを排除して相続不動産に丙単独名義の相続登記をしました。しかし、乙が相続により取得した所有権(共有権)侵害の排除を求めるため、その相続登記の抹消を求めた事案です。

2)884条の消滅時効の援用の可否
昭和53年判決の事案は、共同相続人丙が他の共同相続人乙の存在を知りながら丙単独名義の登記をしたものです。
侵害者が他の相続人の相続権を侵害していることを知らないとは言えず、884条の適用は認められませんでした。

現実にあり得る事案
ただし、具体例のような事案が存在すること自体が、少ないのではないかと思われます。
むしろ、ありえる事案としては、他に共同相続人が存在することを知りながら、例えば、自らに全てを相続させる旨の遺言が存在すると信じていた場合等が考えられます。

どのような場合に「信じていた」といえるか、という主観的事情の立証責任は侵害者たる表見相続人側にある、とされました(最1小判平成11年7月19日)。
しかし、上記のような現実にあり得る事案について、主観的事情を如何なる事実に基づいて判断するかは、平成11年判決でも明らかにされることはなく、事案の集積が待たれます(平成11年判決判例解説544頁以下)。

【関連コラム】
相続回復請求権とは?
相続回復請求権と共同相続人①相続権の侵害はあるのか
相続回復請求権と共同相続人②主観的事情
相続回復請求権と共同相続人③立証の義務者
相続回復請求権と共同相続人⑤遺産分割協議

【コラム執筆者】
村上・新村法律事務所
弁護士 村上博一

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