相続欠格事由5号に関する判例②二重の故意論の解釈

掲載日 : 2014年2月2日

二重の故意論の採用されている範囲
昭和56年判決は「二重の故意の理論の上に立ったものであるとすることには疑問がある」と理解されています(昭和56年判決判例解説210頁)。
他方、平成9年判決は「二重の故意必要説を採るのが相当であると考えたものであろう」と理解されていて(平成9年判決判例解決129頁)、よって立つ見解は全く異なります。

ただ、平成9年判決により、昭和56年判決の判断が変更されたかといえば、そうとは解されていません。
平成9年判決は「破棄及び隠匿についてのみ二重の故意必要説をとる旨を判示したものである」と限定していて(平成9年判決判例解説129頁)、「偽造又は変造」についての判断である昭和56年判決を否定するものではありません。その意味で、昭和56年判決は現在も生きています。

二重の故意の解釈
すると、「破棄又は隠匿」の解釈についてのみ二重の故意に基づいた独自の判断をしなければならないかが問題となります。
この点、平成9年判決は、昭和56年判決の説く制度趣旨(遺言に関し著しく不当な干渉行為をした相続人に対し相続人となる資格を失わせるという民事上の制裁を課そうとする)を持ち出して、「個別に判断していくほかはなく、今後の事例の積み重ねを待つほかない」としています(平成9年判決判例解説130頁)。
このため、結局、この2つの判決の事案を中心にこれまでの裁判例を踏まえた上で、5号を解釈していく外ありません。

1)破棄又は隠匿における二重の故意
この点、平成9年判決は、自らにとって有利な遺言書を破棄・隠匿したことに関する事案なので、この場合に5号が適用されないという結論はすんなり理解できます。
※昭和56年判決の強調した「遺言者の意思」には反しますが、受益者(遺言により利益を受ける者)はこれを拒む権利があり(986条)、自ら利益を受けなくてもよいとしているのならば、この点を強調する必要はないと思います。

2)偽造又は変造における二重の故意
問題なのは、昭和56年の事案です。
ここでは「遺言者の意思を実現させるため」という点が強調されていますが、前述したとおり、その必要がどれだけあるか疑問です。むしろ、Xらの行為は、元々無効な自筆証書遺言に押印し、有効な遺言が存在するかのように取り繕うものだという点です。その内容が、例えば、法定相続分に変更を加えるものであれば、変更の結果損をする相続人もいる訳で、損をする相続人の立場からすれば、そのような行為をした相続人は自らが有利になるよう押印したと映るでしょう(昭和56年判決のBの立場からすれば、そのような感情を抱くのではないかと思われます。)。
にもかかわらず、昭和56年判決が「遺言者の意思」を持ち出してまで5号にあたらないと解釈したのは、結局、Xらの押印が、Yとの関係では、Xらに不利なものであった、乃至は、Yを利するものであったという点が重視されたのではないかと思います。

その意味で、結局、Xらの押印がXら「のみ」を利する場合というのが「遺言に関し著しく不当な干渉行為」をした場合といえるのではないでしょうか。

参考:相続欠格事由5号に該当する例
上記2つの判決の事案を中心にこれまでの裁判例を踏まえた上で、5号を解釈していく外ありません。また、その場合、相続欠格者が自ら「のみ」に利する行為をしたかどうかが判断基準となっていることは前述の通りです。
そう考えると、よく引き合いに出され、前述した事案にも関連するのですが、次のようなケースの理解にも役立つものと思います。

即ち、自らに全てを相続させる旨の遺言を他の共同相続人に示さず(隠匿して)、遺産分割協議を成立させた場合です。といっても、それが他の共同相続人の遺留分相当額を踏まえたものであれば5号にはあたらないと解されますが、それは、自ら「のみ」を利するものではないからです。
しかし、遺言を他の共同相続人に示さないという点で似てはいますが、それが、遺言を遺留分減殺請求権の行使を恐れ、勝手に相続放棄の申述期間伸長申立て等を行い、他の共同相続人に相続放棄を迫る(東京高判昭和45年3月17日判タ248号129頁以下)といった場合には、5号にあたると解されます。それは、自ら「のみ」を利するものといえるからです。

【関連コラム】
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【コラム執筆者】
村上・新村法律事務所
弁護士 村上博一

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