中小企業の事業承継②現経営者の相続が発生した場合における注意点

掲載日 : 2013年12月18日

例えば、現経営者が、会社を自分の長男を後継者と決めた場合、事業承継対策として何をすべきかを考えてみます。
いわゆる「親族内承継」、つまり経営者の親族に承継させるという事業承継のパターンの典型例です。

会社の状況や親族の状況のデータを踏まえ、現経営者の相続が発生した場合のことを考えてみましょう。

相続への対応策
相続人が後継者しか存在しない場合には、専ら課税対策を考えればいいでしょう。
しかし、後継者以外にも相続人がある場合には、現経営者の所有する株式や事業用資産などが他の相続人との共同相続となってしまい、遺産分割協議でもめた場合には、これらが分散してしまうおそれがあります。

とりわけ、株式の相続については注意が必要です。
例えば、50株の株式を相続分同一の2名が相続したとき、当然に25株ずつ分割して承継されるのではなく、50株全部を法定相続分に応じて共有することになります。そうなると、相続人間でトラブルが発生したときには、議決権などの権利行使ができない状態になる可能性があり、その場合には、思いがけず少数株主に主導権を握られてしまう危険もあるのです。

一方、現経営者が、後継者に全財産を相続させるというような遺言を作成したような場合には、他の相続人から遺留分(遺言によっても奪われない相続人の権利)の侵害という主張を受ける可能性がありますので、遺言さえしていれば安心というわけでもありません。

1)事前対応策
そこで、株式や事業用財産を後継者に集中させつつ、相続トラブルを回避する為の事前対策が必要となります。
具体的には、株式などを後継者に集中する為に、生前に贈与や売買を行なったり、株式などを後継者に承継させる旨の遺言を作成したりすべきです。その一方で、事業と関係のない財産は後継者以外に承継させる旨の遺言を作成するなどの配慮を行なうことで、相続人間のトラブルを事前に防止すべきです。

2) 会社の株式を後継者以外にも相続させる場合
また、会社の株式を後継者以外にも相続させる場合には、例えば、あらかじめ議決権制限株式という特殊な株式を発行し、後継者には普通株式を、それ以外には議決権制限株式を承継させるという遺言を行なうことで、経営権(議決権)を後継者に集中させることも考えられます。後の経営をスムーズに行なうためにも、最終的には後継者が単独で特別決議を行える、議決権の3分の2以上の株式を獲得できるように対策を行なうべきでしょう。

3) 生前に株式や営業用資産を譲渡する場合
なお、株式や営業用資産を現経営者の生前に後継者に有償で取得させる場合には、後継者の取得原資の確保という問題がありますし、無償で取得させる場合には贈与税の問題があります。よって、資金のやりくりや、それに伴う課税の関係には細心の注意を払う必要がありますので、税理士や公認会計士とよく相談しながら進めて下さい。
非上場株式等については贈与税の納税猶予制度がありますので、こちらを活用することもご検討下さい。

また、会社に資金があれば、営業用資産を会社に買い取らせることも可能ですし、剰余金(いわゆる配当可能利益)があれば、会社による自己株式取得も可能な場合があります。このような方法も織り交ぜることで、後継者の財産的負担を軽減することが可能です。

4) 中小企業経営承継円滑化法による遺留分特例
その他、遺留分対策については、いわゆる中小企業経営承継円滑化法による遺留分特例という制度を利用することにより、承継対象の株式について遺留分に算入しない等の合意を相続人間でできる場合があります。但し、この制度や前述の納税猶予制度も含め、事業承継対策の制度は適用要件が非常に複雑ですので、ご利用の検討の際には弁護士や税理士などの専門家に必ず相談して下さい。

保証債務・負債対策
さて、現状分析のためのデータとして列挙した中に、「会社の資産・負債の状況」、「代表者の保証の状況」、「売上げの推移と今後の見通し」というものがありました。
データについては→中小企業の事業承継①親族内承継の問題点と現状分析

中小企業において金融負債がある場合、代表者個人が連帯保証をしているケースがほとんどかと思います。そのため、事業承継による代表者の交代に際しては、「保証の引継ぎ」という問題を避けて通れません。後継者としては、資産・負債の状況と今後の業績予想を見比べて、保証という重い責任を承継するに値するかを見極めなければなりません。

そして、場合によっては、事業承継に際して負債対策(債務処理)を検討し、承継後に倒産するという最悪のケースをできる限り回避することも重要です。

例えば、不採算部門を切り分け、採算部門のみを承継させる為、事業譲渡や会社分割の手続を用いて不採算部門を別会社に切り分けた上で清算するという、いわゆる「第二会社方式」を用いること、法律上の手続である「民事再生手続」を用いること、任意整理の手法を用いることなど、複数の手段が考えられます。これらのスキームを用いるためには、高度な法知識が要求されますので、弁護士など専門家の支援は必須といえます。

【関連コラム】
中小企業の事業承継①親族内承継の問題点と現状分析
中小企業の事業承継③早期の方針決定の重要性

【コラム執筆者】
ソラリス法律事務所
弁護士 松村 直哉