遺留分減殺請求と取得時効

掲載日 : 2013年10月30日

質問
私は長くアメリカ暮らしですが、家族には兄の外に父がいました(母は既に死亡)。久々に帰国したところ、父が今年亡くなったということを兄から聞きました。父の所有していたマンション甲は数十年前に兄に贈与されており、兄はこれを長期間占有していたため取得時効を主張していますが、遺留分減殺請求をすることができますか。
回答
相続開始時より相当前になされた贈与で、長期間にわたり占有していた場合であっても、取得時効を援用することはできず、遺留分減殺請求の対象となります。

相続人に対する特別受益の持戻し計算は、1030条による制限を受けず、何年でも遡れます(1044条、903条)。

取得時効が成立した場合でも遺留分減殺請求権は認められるか
それでは、兄が取得時効に必要な期間マンション甲を占有していた場合、マンション甲に対する相談者の遺留分減殺請求を拒めるかが問題になります。
この点、最高裁は贈与が相当前になされ、占有が長期間にわたるものであっても、他の相続人は遺留分の減殺請求による権利取得ができると判断しました。

これは、時効による取得を認めると他の相続人から時効取得を阻止する手段を奪うことになるためです。すなわち、受贈者(兄)は贈与を受けてから被相続人の死亡までの間、現実に不動産の所有権を有し、占有している場合には占有権をも主張することができます。一方、他の相続人(あなた)はその間推定相続人であるものの、相続人としての地位も明確ではありません。また、受贈者に対し、不動産の明け渡しを請求することはできず、時効を中断させる法的手段を得ることはできません。
このように、相続人間において不公平が生じるため、占有期間が取得に足るものであっても、時効取得は認められないと解されています。

最1小判平成11年6月24日(判タ1010号241頁以下)
遺留分減殺の対象としての要件を満たす贈与を受けた者が、右贈与に基づいて目的物の占有を取得し、民法162条所定の期間、平穏かつ公然にこれを継続し、取得時効を援用したとしても、右贈与に対する減殺請求による遺留分権利者への右目的物についての権利の帰属は妨げられない。

結局そのように解しないと、1044条が903条を準用した趣旨が害されるというのが一番の理由と解されます。

ですから、例えば「受贈者が生前贈与とは別個の事由に基づいて目的物の占有を開始してこれを時効取得した場合の減殺請求の可否という点についてまでその射程が及ぶものではないだろう」とされています(最高裁判例解説民事篇平成11年度上499頁)。

【162条(所有権の取得時効)】
20年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。
10年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する(162条2項)。

【1030条、1044条】
遺留分算定にあたり考慮される生前贈与(特別受益)については、相続開始前一年間にされたものに限られます(1030条)。ただし、この規定は相続人が贈与を受けた場合には適用がありません。
相続人が受けた特別受益となる贈与については、相続開始前1年間に限定せず、すべて遺留分算定の基礎となる財産額に含まれることになります(1044条の903条の準用)。

【関連コラム】
遺留分侵害額の算定│相続債務がある場合の計算方法
遺留分侵害額の算定│特別受益①過去の贈与も遺留分算定に含めるか
遺留分侵害額の算定│特別受益②遺留分減殺請求の対象となるか
遺留分侵害額の算定│特別受益③計算方法
遺留分侵害額の算定│特別受益④最高裁と学説の見解の違い
遺留分侵害額の算定│個別に相続する債務との関係
遺留分減殺請求権の行使①その方法
遺留分減殺請求権の行使②その効果
遺留分減殺請求権の行使③価額弁償

【コラム執筆者】
村上・新村法律事務所
弁護士 村上博一

事務所HP :
http://www.m2-law.com/