遺留分減殺請求権の行使③価額弁償

掲載日 : 2013年10月29日

質問6 : 遺留分減殺請求を行って、遺留分を侵害された範囲で贈与・遺贈された財産の返還を受けても、現物返還が原則のため共有になるのですね。ただ、私としては、マンション甲の持分をもらっても仕方がないと思っているのですが、この点、何とかならないでしょうか。
回答6 : 確かに、原則として現物返還となるため、共有となります。ただし、受贈者または受遺者(「相続させる」という形が採られても同様です。)が現物返還の代わりに、遺留分侵害額相当の金銭を支払うことにより、現物返還を免れる定めがあります(1041条)

現物返還の原則
遺留分減殺請求権とは、遺留分権利者(あなた)の侵害された遺留分に関する権利を被相続人(お父さん)の相続財産上に回復させるものなので、今回の場合、マンション甲の持分を取得するというのが本来の姿であり、それが限界です。これを現物返還の原則といいます。

価額弁償
現物返還の原則を徹底した場合、遺留分減殺の対象となる目的物の持分取得となるため、受遺者または受贈者と遺留分権利者との共有関係になることが多くみられます。

この場合、共有物の使用・変更・管理にあたっては、共有者間で制約があるため、お兄さん(相続させるとされた者)としても、マンション甲の持分が一部でもあなた(遺留分権利者)に取られるのならば、いっそのことその分の金銭をあなたに払って済ませようと考える場合もあります。
そこで、お兄さんが対象財産の価格を弁償することにより、現物返還の義務を免れることができるとして、価額弁償の制度が設けられています。

すなわち、受遺者または受贈者は「減殺を受けるべき限度において…遺贈の目的の価額を遺留分権利者に弁償して返還の義務を免れることができる」とされています(1041条1項、お兄さんは「相続させる」という形でマンション甲を得ていますが、この場合も同様です。)。これを価額弁償といい、それは「被相続人の意思を尊重しつつ、すでに目的物の上に利害関係を生じた受贈者又は受遺者と遺留分権利者との利益の調和をもはかる」点から認められていると解されます(最2小判昭和51年8月30日判タ340号155頁以下)。

お兄さんがこのような権利を行使すれば、あなたの持ち分に相当する現金をお兄さんから払ってもらえます。

また、1041条によって「受遺者が返還の義務を免れる効果を生ずるためには、受遺者において遺留分権利者に対し価額の弁償を現実に履行し又は価額の弁償のための弁済の提供をしなければならず」とされていて、お兄さんが「単に価額の弁償をすべき旨の意思表示をしただけでは足りない」とされていますので、この点は、安心しても大丈夫です(最3小判昭和54年7月10日判タ399号137頁以下)。

価額弁償の価額算定の基準時
上記昭和51年8月最高裁判決によれば「価額弁償は目的物の返還に代るものとしてこれと等価であるべき」として「価額算定の基準時は、現実に弁償がされる時であり、遺留分権利者において当該価額弁償を請求する訴訟にあっては現実に弁償がされる時に最も接着した時点としての事実審口頭弁論終結の時」とされています。

遺留分減殺請求の対象となる目的物を選択できるか
マンション甲が8,000万円の1つの物件ではなく、2,200万円の甲1と5,800万円の甲2の2つの物件であった場合。
この場合、仮に相談者の遺留分侵害額が2,200万円であったとして、相談者が、遺留分減殺請求権行使の結果として、マンション甲1全部の権利移転を求めることができるかが問題になりますが、これは出来ないとされています。

遺留分は、基礎となる財産の一定「割合」として計算(1028条)され、目的物の価額「割合」に応じて減殺していくもの(1034条)に過ぎず、特定の財産を取得することを保障するものではないからです。
相談者としては、甲1、甲2共に11/40の権利(物権・共有権)を取得するに過ぎません。

価額弁償の抗弁が認められる者
遺留分侵害額相当の金銭を支払うことにより、現物返還を免れる制度(価額弁償の抗弁)は、受遺者または受贈者に認められた制度であり、遺留分権利者が金銭での弁償を強制することはできません。

このため、相談者の遺留分減殺請求に対して、兄の方から、例えば、マンション甲1について「のみ」価額弁償をしてその権利に関する請求を免れることは出来るとされています(最3小判平成12年7月11日判タ1041号149頁以下)。

その理由は幾つかあると思いますが、前述したとおり、価額弁償は受贈者等の利益のために存在するものであること、遺留分といっても「一定割合」に関する権利に過ぎないので、そのように解しても遺留分権利者の権利を害したことにならないといった点が重要なのではないかと思われます。

  

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【コラム執筆者】
村上・新村法律事務所
弁護士 村上博一

事務所HP :
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