遺留分減殺請求権の行使②その効果

掲載日 : 2013年10月28日

質問5 : 私が遺留分減殺請求権を行使した場合、どのような結果になりますか。
回答5 : 遺留分の侵害となった遺贈や贈与はなかったことになり、減殺請求をされた者は対象物の権利を返還する必要があります。ただ、遺留分は遺産全体に対する割合的な権利であり、しかも現物返還が原則となっているので、多くの場合、共有状態となります。また、この共有状態の解消のためには、共有物分割(256条以下)の手続が必要となります。

現物返還の原則と共有関係
昭和41年7月最高裁判決によれば「遺留分減殺請求権は形成権であって…その意思表示がなされた以上、法律上当然に減殺の効力を生ずる」とされています。

すなわち、遺留分減殺請求の行使がなされると、法律上の効果が出て、遺留分の侵害となった遺贈や贈与はなかったことになります。
その結果、対象物に関する権利は、遺留分減殺請求権者のものとなり、減殺請求をされた者(受遺者または受贈者。「相続させる」という形が採られても同様です。)は、対象物の権利を返還する必要があります(現物返還の原則)。

例えば、あなたの遺留分侵害額が2,200万円であったと仮定して、お兄さんへ遺贈されたマンション甲(8,000万円)について、あなたがお兄さんに遺留分減殺請求権を行使したとすると、その限度で(2,200/8,000=11/40)マンション甲の権利(物権・共有権)があなたに移転する訳です。

このように物権・共有権の移転といった効果が直ちに発生するという意味で、そこには物権的効力があるとされています。

遺留分減殺請求により生じる法律関係
問題は、その結果として生じたマンション甲についてのお兄さんとあなたの「共有」関係を解消するには、どのような手続が必要かという点です。
この点については、お父さんの遺言の法的性質について、1)特定財産を相続させた場合、2)財産を包括的に相続させた場合、にわけて検討する必要があります。

ただし、いずれの場合においても、遺留分減殺請求権の行使によって生じる法律関係は、あなた(遺留分減殺請求者)とお兄さん(相続させられた者)との個別的な関係となります。
この場合、遺産分割の対象となる相続財産としての手続ではなく、個別財産としての共有物分割の手続きということになります。
このため、共有状態の解消にあたっては、遺産分割のやり直し(906条以下)の手続ではなく、持分権の交換としての共有物分割(256条以下)の手続によることになります。

1)特定財産を相続させる遺言であった場合
この場合、遺言によって、マンション甲の権利(物権・所有権)はお兄さんに直ちに移転し、それは既にお父さんの遺産ではなくなった状態の後、遺留分減殺請求権の行使によって、その一部の権利(物権・共有権)があなたに移転します。その結果、当該不動産は、あなたとお兄さんの共有状態となり、両者の個別的な関係となります。

この共有状態の解消にあたっては、遺産分割協議(906条以下)ではなく、個別財産しての共有物分割の手続き(256条以下)ということになります。

2)財産を包括的に相続させる遺言等と解釈される場合
ただ、前述したとおり、お父さんの遺産はマンション甲が殆どなので、その遺言はお父さんの遺産を包括的に相続させるものとも解釈できます。

このような場合、遺言によって、お父さんの遺産について「お兄さんを10、あなたを0とする相続分の指定(902条1項)がなされた」のと実質的には同じことであると考える立場があります。この立場は、そのように考えると、マンション甲は遺産のままなので、その共有関係を解消する手続も、遺産分割の対象となる相続財産として遺産分割(906条以下)をすべきだと主張します。
その背景には、このような場合は、実質的には共同相続人間の共有関係の解消の問題なので、全体として家庭裁判所で対応することが望ましいというような考えがあるのかもしれません。

例えば、遺言によって「お兄さんを7、あなたを3とする相続分の指定がなされた」場合、お父さんの遺産の全体の中からあなたがどの部分の3割を取得するのか、これは遺産分割協議によって決めなければどうしようもないと思います。このような場合は、この見解にも納得がいきます。

財産を包括的に相続させる遺言があったとして、その法的性質が相続分を10:0と指定するものと解したところで、遺言の効力が発生した時点で、マンション甲の権利(所有権)は全てお兄さんに移転すると考えざるを得ないからです。このため、相続分の10を相続させると指定している以上、0の相続分しか有しないあなたが、お兄さんと協議することはできないからです。

 

ですから、このような場合でも、結局、特定財産を相続させる遺言の場合と同じということになり、共有関係を解消するのは、個別財産しての共有物分割の手続(256条以下)ということになります。

この点、以下の判例のうち、①の理由は様々でしょうが、遺留分減殺請求権の法的性質(形成権・物権的効力説)の外に上記判決が②としている点が重要かと思われます。

最2小判平成8年1月26日(判タ903号104頁以下)
遺言者の財産全部の包括遺贈に対して遺留分権利者が減殺請求権を行使した場合に遺留分権利者に帰属する権利は、遺産分割の対象となる相続財産としての性質を有しない。
民法は、遺留分減殺請求を減殺請求をした者の遺留分を保全するに必要な限度で認め(1031条)、遺留分減殺請求権を行使するか否か、これを放棄するか否かを遺留分権利者の意思にゆだね(1031条、1043条参照)、減殺の結果生ずる法律関係を、相続財産との関係としてではなく、請求者と受贈者、受遺者等との個別的な関係として規定する(1036条、1037条、1039条、1040条、1041条参照)など、遺留分減殺請求権行使の効果が減殺請求をした遺留分権利者と受贈者、受遺者等との関係で個別的に生ずるものとしていることがうかがえるから、特定遺贈に対して遺留分権利者が減殺請求権を行使した場合に遺留分権利者に帰属する権利は、遺産分割の対象となる相続財産としての性質を有しないと解される。

そして、包括遺贈も包括的に財産を相続させる場合もその効果は実質的には同じですので、本件の場合も同様に共有物分割手続が必要と解される訳です。

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【コラム執筆者】
村上・新村法律事務所
弁護士 村上博一

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