遺留分侵害額の算定│個別に相続する債務との関係

掲載日 : 2013年10月26日

質問3 : それでは、私の遺留分侵害額は幾らになるのでしょうか。
回答3 : これは、少し難しい問題で、あなたがお父さんの4,000万円の債務のうち幾らを承継するのか、特にお兄さんから見せられたという遺言がどのようなものかによると思います。平成8年11月最高裁判決のポイントとして指摘した③と関連する点です。

【平成8年11月最高裁判決により定められた算式】

遺留分侵害額 遺留分額-相続によって得た財産額
-負担すべき相続債務   ・・・③

特定財産を相続させる遺言であった場合
見せられた遺言は「マンション甲は兄に相続させる」というものなので、普通に考えれば、この遺言は、甲という特定の財産をお兄さんに相続させるものです。

すると、甲以外のものは、法定相続どおりとなり、「金銭債務その他の可分債務は、法律上当然分割され、各相続人がその相続分に応じてこれを承継する」ことになります(最2小判昭和34年6月19日民集13巻6号757頁以下。この点については「遺産分割審判の対象となるもの②債権等(金銭債権・預貯金・株式・社債等)」を参照ください。)。

相続人は、お兄さんとあなたの2人だけですから、債務のうち2,000万円はあなたが承継することになります。そうなると、あなたの遺留分額は、前述したとおり、300万円であって、以下の計算により、遺留分侵害額は、2,200万円ということになります。

遺留分侵害額 遺留分額-相続によって得た財産額(※)
-負担すべき相続債務
2,200万円=300万円-100万円-(-2,000万円)

※本件の場合、預金の半分 100万円

ここで個別に相続する債務が差し引かれるのは「遺留分算定の基礎となる財産の計算において債務が考慮される(民法1029条)にもかかわらず、遺留分侵害額の算定においては減殺請求者が相続を原因として負担した債務を考慮しない、とするのはバランスを欠く。」と解されるからです(金子「最高裁判所民事判例研究・被相続人が相続開始時に債務を有していた場合における遺留分額の侵害の算定」法学教会雑誌119巻3号119頁)。

財産を包括的に相続させる遺言と解釈される場合
ただ、あなたのお父さんの財産の殆どはマンション甲です。なので、その遺言は、結局、全ての財産をお兄さんに相続させる遺言とも解釈できます。このような遺言がなされた場合の遺留分侵害額の算定についても、最高裁の判例があります。

これによると、相続人の一人に全て相続させるとした遺言は、特段の事情がない限り、債務も全て相続させたものと解するべきであると判断されています。すなわち、遺言に基づくプラスの財産を全部承継する者は、マイナスの財産も全部承継すべきとしました。

最3小判平成21年3月24日(民集63巻3号427頁以下)
相続人のうちの1人に対して財産全部を相続させる旨の遺言がされた場合には、遺言の趣旨等から相続債務については当該相続人にすべてを相続させる意思のないことが明らかであるなどの特段の事情のない限り、相続人間においては当該相続人が相続債務もすべて承継したと解され、遺留分の侵害額の算定に当たり、遺留分権利者の法定相続分に応じた相続債務の額を遺留分の額に加算することは許されない。

そうすると、あなたの遺留分額が、300万円であることからすれば、相続によって得た財産額(預金の半分100万円)が引かれるだけなので、遺留分侵害額は、200万円ということになります。

遺留分侵害額 遺留分額-相続によって得た財産額(※)
-負担すべき相続債務
200万円=300万円-100万円-(0円)

このように考えると、その結論には随分差がでますので、正式に弁護士に依頼して具体的に検討された方がいいと思います。

【関連コラム】
遺留分侵害額の算定│相続債務がある場合の計算方法
遺留分侵害額の算定│特別受益①過去の贈与も遺留分算定に含めるか
遺留分侵害額の算定│特別受益②遺留分減殺請求の対象となるか
遺留分侵害額の算定│特別受益③計算方法
遺留分侵害額の算定│特別受益④最高裁と学説の見解の違い
遺留分減殺請求権の行使①その方法
遺留分減殺請求権の行使②その効果
遺留分減殺請求権の行使③価額弁償
遺留分減殺請求と取得時効

【コラム執筆者】
村上・新村法律事務所
弁護士 村上博一

事務所HP :
http://www.m2-law.com/