遺留分侵害額の算定│特別受益②遺留分減殺請求の対象となるか

掲載日 : 2013年10月23日

相続人に対する生前贈与(特別受益)は、その時期を問わず「遺留分算定の基礎となる財産額」に含まれます(1044条の903条の準用)。

遺留分減殺請求の対象となるか
では、この特別受益は遺留分減殺請求の対象となるのでしょうか。
この点、最高裁は、相続人に対する特別受益は受けた時期にかかわらず、特段の事情がない限り、遺留分減殺の対象となると判断しました(平成10年3月24日判決)。

ただし、相当昔になされた生前贈与まで遺留分の減殺請求を認めると、生前贈与を受けた相続人に酷になる場合があります。このような「特段の事情がある場合」には遺留分減殺請求の対象になりません。
例)生前贈与を受けた時は裕福だったが相続時には経済的にかなり困窮している場合

最3小判平成10年3月24日(判タ973号138頁以下)
民法903条1項の定める相続人に対する贈与は、右贈与が相続開始よりも相当以前にされたものであって、その後の時の経過に伴う社会経済事情や相続人など関係人の個人的事情の変化をも考慮するとき、減殺請求を認めることが右相続人に酷であるなどの特段の事情のない限り、民法1030条の定める要件を満たさないものであっても、遺留分減殺の対象となるものと解するのが相当である。けだし、民法903条1項の定める相続人に対する贈与は、すべて民法1044条、903条の規定により遺留分算定の基礎となる財産に含まれるところ、右贈与のうち民法1030条の定める要件を満たさないものが遺留分減殺の対象とならないとすると、遺留分を侵害された相続人が存在するにもかかわらず、減殺の対象となるべき遺贈、贈与がないために右の者が遺留分相当額を確保できないことが起こり得るが、このことは遺留分制度の趣旨を没却するものというべきであるからである。

903条2項(超過特別受益)との関係
この点、このような解釈をすると903条2項の趣旨が害されるとして、これに反対する見解も有力でした。

特別受益額の方が、具体的相続分より高くなる場合も想定されますが、超過額を返還する必要はありません。
即ち、903条2項は「贈与の価額が、相続分の価額…を超えるときは…受贈者は、その相続分を受けることができない」としているだけで、超過受益の返還義務を認めていません(超過受益については「具体的相続分とは②特別受益の計算例と立証のポイント」を参照ください。)。これは、後で特別受益として返還させることを予定して被相続人が生前に財産を贈与したとは考えられないためです。

ところが、例えば、Aが、平成20年7月、相続人の一人である長男Bに1,000万円の現金を贈与した後、同25年7月、他に何ら財産も残さず死亡したとします。この場合に、平成10年3月最高裁判決のような立場を採ると、もう一人の相続人である二男CはBに対し250万円の遺留分減殺請求ができることになりますが、Bにしてみれば、この結論は、903条2項の趣旨に反すると主張します。1044条が903条を準用していることは事実ですが、それは1030条の限度で認められるにすぎないと主張する訳です。
その結果、「損害を加えることを知って」したものでない限り、持戻しの必要はないということになります。

【1030条、1044条】
遺留分算定にあたり考慮される生前贈与(特別受益)については、相続開始前一年間にされたものに限られます(1030条)。ただし、この規定は相続人が贈与を受けた場合には適用がありません。
相続人が受けた特別受益となる贈与については、相続開始前1年間に限定せず、すべて遺留分算定の基礎となる財産額に含まれることになります(1044条の903条の準用)。

しかし、前述したとおり、遺留分減殺額の算定は、具体的相続分の算定と異なって、遺留分侵害者の有する相続財産から、法定相続人がどれだけ実質的な利益を受けるべきかという視点から判断されます。
「相続分の算定に際し超過受益分を返還する必要がないことは、遺留分減殺の際にも超過受益分を返還する必要がない(減殺の対象とならない)ことの論拠とならない」と考えられます(最高裁判例解説民事篇平成10年度(上)316頁以下)。むしろ、そのような見解を原則にすると、遺留分を侵害された相続人が存在するにもかかわらず、減殺の対象となるべき遺贈、贈与がないため、遺留分相当額を確保できないことが想定し得ます。これは、上記平成10年3月最高裁判決が指摘するとおり、「遺留分制度の趣旨を没却することになる」と思われ、実務上、特別受益は遺留分減殺請求の対象として運用されています。

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【コラム執筆者】
村上・新村法律事務所
弁護士 村上博一

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