特別受益|生計の資本としての贈与④現金等(生命保険金等)

掲載日 : 2013年10月3日

特別受益における「生計の資本としての贈与」は、単なる「贈与」ではなく「生計の資本」としてのものであることが必要です。その程度でなければ、これを考慮しないまま具体的相続分を算定したとしても(903条1項)相続人間の不公平にはならないからです。

その意味で「遺産の前渡し」と認められるかどうかが重要であり、現金に関連し、検討される問題点を説明したいと思います。

生命保険金
1)原則:特別受益にあたらない
生命保険金は、保険契約に基づいて支払われるので、相続によって取得されるものではありません。その意味で保険金は、そもそも相続財産にあたりません。だとすれば、本来特別受益にもあたらない筈です。特別受益というのは「相続財産」の前渡しとされるものだからです。

【相続税法の違い】
上記の通り、民法では生命保険金は相続財産に含まれません。一方、相続税法では生命保険金は一部を控除した上で相続税申告の対象となる財産となります。
このように、民法と相続税では扱いが異なるため、調査・検討等を行う場合、法律面に関する事項か、税務面に関する事項かという前提条件が重要となります。

2)例外:903条の類推適用
生命保険金が相続財産に含まれないとすると、特定の相続人が生命保険の受取人となっている場合、各相続人間で実際に受け取る金銭についての差が生じることになります。
例えば、相続財産が1,000万円しかないのに死亡保険金が3,000万円として、これを一人受け取った子がいた場合、他の子等の相続人との間に不公平感が生まれます。

そこで、生命保険金が相続財産に含まれないとしても、特別受益として考慮すべきではないかとして、下級審の対立があったところ、最高裁は、特段の事情がある場合においては特別受益にあたると判断しました。

すなわち、原則として生命保険金は特別受益にあたりません。ただし、特別受益に該当しないとすることで、保険金受取人である相続人とその他の相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情がある場合、民法903条の類推適用により特別受益に準じて持ち戻しの対象となります。

最高裁(最2小決平成16年10月29日判タ1173号199頁以下)
原則として保険金は特別受益にあたらないが「保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には、同条の類推適用により、当該死亡保険金請求権は特別受益に準じて持戻しの対象となる」とした。

この事案は、養老保険に関するもので、それは満期乃至は死亡時に定額が支払われるという意味で、貯蓄性が高い保険です。その意味で預貯金と似た性格がありますが、そのような場合でも原則として、特別受益にあたらないとした訳です。ただ、その事案の保険金額は600万円程で、遺産額は6,000万円程、保険金といっても遺産の1割程度でした。また、生命保険金をもらった相続人は昭和56年から平成2年まで9年間認知症の状態の親を同居で面倒見ていたので、それほどおかしな判断とは思われませんでした。

3)903条の類推適用の「特段の事情」
すると「特段の事情」というのは何かということになりますが、結局「基本的には、以下の客観的な事情により、著しい不平等が生じないか」によって判断すべきとされています(最高裁判所判例解説民事篇平成16年度631頁)。

・保険金の額
・この額の遺産総額に対する比率
・同居の有無
・被相続人の介護等に対する貢献の度合い
・他の相続人と保険金を受領した相続人との関係
・各相続人の生活実態等の諸般の事情

4)「特段の事情」があったとして特別受益であることを認めた事例
【東高決平成17年10月27日(家月58巻5号94頁以下)】
相続財産が1億円程であるのに対し受取保険金総額が1億円程とほぼイーブンなものでした。元々母親が受取人であったものを母親の死をきっかけに相続人の1人である息子が受取人になったという事案で、特に、その息子が被相続人である父親と同居していた訳でもなくその扶養や施設介護を託されていたというものでもありませんでした。その意味で、特段の事情が認められるのももっともな事案でした。

【名古屋高決平成18年3月27日(家月58巻10号66頁以下)】
後妻と先妻の子供が争った事案です。遺産は8,400万円でしたが、後妻は5,100万円の保険金を受け取っていたというものです。遺産の60パーセントを超える額を受け取っており、しかも、婚姻期間は3年5か月程度。被相続人は昭和7年生まれで平成14年死亡なので70歳超え、歳をとってからの再婚。後者は、このような事情があったからこそ、特段の事情が認められたのだと思います。

死亡退職金・遺族年金
死亡退職金や遺族年金も、それぞれの支給の根拠となる法律、契約その他の定めの内容によりますが、相続とは関係なく、遺族の生活保障といった視点から給付されることが多いので、その多くは、相続財産にもあたらず、また、特別受益にもあたりません。

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【コラム執筆者】
村上・新村法律事務所
弁護士 村上博一

事務所HP :
http://www.m2-law.com/