遺産分割審判における使途不明金④死亡後の引き出し

掲載日 : 2013年9月26日

遺産分割の際、「被相続人の預貯金が思っていた以上に少ない。」場合がよくありますが、これを使途不明金といいます。
遺産分割調停は、決着がつかなければ、遺産分割審判に移りますが、そこでは審判の対象とならない限り、裁判所としても最終的に紛争を処理できません。ですから、被相続人の預貯金の引き出しが死亡後である場合においては、どのようなものが審判の対象となるのかを意識しつつ、以下の例を用いて簡潔に説明したいと思います。

被相続人である母Aの預貯金が、Aの死亡後、金融機関がAの死亡を知って支払停止をかける前に引き出されていました。
依頼者である姉Bは、相手方を弟Cとし、Cが預貯金の引き出しをしたとして「使途不明金」の探求を巡り、遺産分割調停を申し立てました。

金融機関がAの死亡を知って支払停止をかける前にCがこれを引き出すという場合も、割と見かけます。やはり、このようなときでも、先ずBとしては「Cが勝手に」引き出したと主張します。

預貯金を引き出したCの主張
これに対して、Cの「もらった」という主張は、遺言等でもない限り、認められないと思います。ですから考えられるのは「為にした」という主張ですが、Aは既に死亡しているので、その対象はAではありえません。B、Cという相続人全員の「為にした」という主張がなされます。例えば、葬儀費用、固定資産税の支払の為にしたという主張です。

引き出した現金は審判の対象となるか
ただ、このような主張が仮に認められ、Cの下に引き出した現金等が残存していたとしても、
分割すべき遺産として扱うことはできません。

確かに、現金は遺産分割審判の対象と判断されています(最2小判平成4年4月10日判タ786号139頁以下)。
しかし、A死亡の時点で存在していた財産は、預貯金といった金銭債権としての性質が決定されていて、金銭債権はA死亡によって当然に分割されると考えられるため、遺産分割審判の対象となりません。後にそれが現金になったところで、その性質が変更されると考えるのはおかしいからです。

このようなことから、現金が遺産分割審判の対象になるとした、上記最高裁の判断とは異なるものと考えられます。

【参考】
この点、同判例の理解として「共同相続人間での場面でみるときは、可分債権についてみても、相続持分に応じて当然に分割されるものではない」と解する見解(塩月「金銭の相続と遺産分割」家月44巻10号1頁以下、特に9頁以下)を紹介しました(詳しくは、遺産分割審判の対象となるもの②債権等(金銭債権・預貯金・株式・社債等)を参照ください。)。
この見解によれば、遺産が金銭債権であったとしても、その支払を求めるのは「共同相続人Cに対してなので、相続分に応じて当然に分割されるものではない」即ち、審判の対象になると考えることになるかもしれませんが、このような理解は一般的ではないと思われます。

預貯金を引き出したCになし得る請求
このように、被相続人の死亡後に預貯金が引き出されているような場合には、引き出した後の現金等は遺産分割の対象とはなりません。その結果、他の相続人は不法行為に基づく損害賠償または不当利得の返還を求めることができます。
この場合、使途不明金とその他の案件を併せて調停による解決が考えられますが、話し合いがまとまらない場合、このような使途不明金については、別途一般の調停や民事訴訟を行う必要があります。

最3小判平成16年4月20日(判タ1151号294頁以下)
共同相続人の1人が、相続財産中の可分債権につき、法律上の権限なく自己の債権となった分以外の債権を行使した場合には、当該権利行使は、当該債権を取得した他の共同相続人の財産に対する侵害となるから、その侵害を受けた共同相続人は、その侵害をした共同相続人に対して不法行為に基づく損害賠償又は不当利得の返還を求めることができる。

預貯金を死亡後に引き出した場合のまとめ
ですから、死亡後の引き出しの場合には、何れにせよ遺産分割審判の対象にならないことが殆どと解されます。

しかし、金銭債権といっても共同相続人全員の同意があれば、審判の対象となし得ることは以前ご説明しました(詳しくは、遺産分割審判の対象となるもの②債権等(金銭債権・預貯金・株式・社債等)を参照ください。)。

すると、死亡後に引き出した現金等がCの下に存在する場合、BはCに対し訴訟で自ら相続した分を請求できます。しかし、その反面、Cが葬儀費用や固定資産税等を立て替えて支払った場合には、CもBに対して訴訟で葬儀費用等の中で相当な金額を請求できるということになります。
とすれば、お互い別途訴訟等をするだけ面倒なので、このような事情も考慮して、Cの下にある現金等を遺産分割審判の中で決着つけて欲しい、という合意がBC間で生じることも珍しくはないと思われます。

遺産分割審判における使途不明金
このように考えると、使途不明金について、最終的に審判で解決される場合はあまり多くないですが、調停の中で相手方に対する情報を仕入れることも可能です。その結果、仮に、それが審判の対象にはならないものであっても、話し合いに従って調停合意による紛争処理がなされる場合も少なくないので、調停の申立自体にも、それなりの意味はあるのかもしれません。

葬儀費用、遺産管理費用の取扱い
これらについては、何れも、被相続人の「死亡後」に発生した「債務」についてのものなので、遺産分割審判の対象にならない、というのが実務の取扱いです(なので、これらも「付随問題」と位置付けられています。)。

詳細は、「相続における葬儀費用、遺産管理費用(固定資産税等)の負担の取扱い」を参照下さい。

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遺産分割審判とは②手続きの流れと調停との関係
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遺産分割審判の対象となるもの③現金
遺産分割審判における使途不明金①預貯金の調査と付随問題
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【コラム執筆者】
村上・新村法律事務所
弁護士 村上博一

事務所HP :
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