遺産分割審判における使途不明金③死亡前の引き出し(被相続人の為にしたという主張)

掲載日 : 2013年9月25日

遺産分割の際、「被相続人の預貯金が思っていた以上に少ない。」場合がよくありますが、これを使途不明金といいます。
遺産分割調停は、決着がつかなければ、遺産分割審判に移りますが、そこでは審判の対象とならない限り、裁判所としても最終的に紛争を処理できません。ですから、被相続人の預貯金の引き出しが死亡前である場合においては、どのようなものが審判の対象となるのかを意識しつつ、以下の例を用いて簡潔に説明したいと思います。

被相続人である母Aの預貯金が、生前多数回又は(或いは)多額に引き出されていました。
依頼者である姉Bは、相手方を弟Cとし、Cが預貯金の引き出しをしたとして「使途不明金」の探求を巡り、遺産分割調停を申し立てました。

Bとしては、先ず引き出しはCが勝手にしたものであると主張します。

「被相続人の為に引き出した」という主張
一番よくあるのが「被相続人Aの為に引き出した」という主張です。
これが現金として残っていれば審判の対象になりますし、これが後に「A遺産管理人C」名義の口座にあれば、遺産分割審判の対象になります(最2小判平成4年4月10日判タ786号139頁、その詳細については、遺産分割審判の対象となるもの③現金を参照ください。)。

引き出した現金等が全てなくなっている場合
問題は、これが全てなくなっている場合です。これが被相続人の「為にした」ものでなければ、勝手にしたということなので、前述したとおり、BはCに不当利得乃至は不法行為による金員支払の訴えを提起することになります(勝手にした場合については、遺産分割審判における使途不明金②死亡前の引き出し(特別受益)をご参照ください。)。

現金等を無理に探すよりも発想の転換を
Cがなくなったといっているだけで、現実には残っているかもしれません。この点、当事者は躍起になって現金等を探そうとします。しかし、無理やり現金等を発見したところで、確かに、それは前述したとおり、遺産分割審判の対象になりますが、そこで「Cの下にある現金等をBに分割する」という審判をもらっても、すんなりCがそれをBに渡すとは考えにくいです。そうなると、結局、BはCに訴訟を提起せざるを得ないので、無理やり探して審判することは、その分だけ無駄を費やすだけになります。発想の切り替えが必要と思われます。

被相続人の「為にした」という主張はどのような場合に認められるのか
この点、Cから支出明細が出てくれば、その主張の真偽はそれなりに判断できます。しかし、それが出てこない場合(特に長期に亘った多額の引き出しの場合は明細が出てきにくいと思われます。)は、Aの生前の生活レベルを認定し、そのような支出がその生活レベルに見合ったものかどうかにより判断されることになると思います。

その上で、被相続人の「為にした」ものでは「ない」ことがはっきりした場合は、「勝手にした」ことになるので、Cは不当利得乃至は不法行為による支払義務を負担することになります。Cが支払ってくれる等、任意の履行が期待できないなら、Bは調停等を取り下げてCに対する訴訟を起こすことになります。

難しいのは、「為にした」のかどうか、真偽がわからない場合です。
1つの考えは「勝手にした」場合でないと、BのCに対する金員支払請求は認められません。だとすれば、「為にした」かどうかわからない=「勝手にした」かどうかわからないということで、Bの請求は認められないという考え方です。
もう1つは、とりあえず、Cが預貯金を引き出したのは事実である。これを正当化できるのは「為にした」場合だけである。なので「為にした」かどうか明らかでないときは、Cは自らの行為を正当化できないので、Bの請求は認められるという考え方もあるかと思います。

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【コラム執筆者】
村上・新村法律事務所
弁護士 村上博一

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