遺産分割審判における使途不明金②死亡前の引き出し(特別受益)

掲載日 : 2013年9月24日

遺産分割の際、「被相続人の預貯金が思っていた以上に少ない。」場合がよくありますが、これは使途不明金といわれるものです。
遺産分割調停は、決着がつかなければ、遺産分割審判に移りますが、そこでは審判の対象とならない限り、裁判所としても最終的に紛争を処理できません。ですから、被相続人の預貯金の引き出しが死亡前である場合においては、どのようなものが審判の対象となるのかを意識しつつ、以下の例を用いて簡潔に説明したいと思います。

被相続人である母Aの預貯金が、生前多数回又は(或いは)多額に引き出されていました。
依頼者である姉Bは、相手方を弟Cとし、Cが預貯金の引き出しをしたとして「使途不明金」の探求を巡り、遺産分割調停を申し立てました。

Bとしては、先ず引き出しはCが勝手にしたものであると主張します。

相手方が勝手に引き出したことを認めた場合
この主張に対し、Cがこれを認めれば、それは生前AがBに対して不当利得乃至は不法行為による金員請求権を有していたことになります。これは、遺産分割審判の対象となるもの②債権等(金銭債権・預貯金・株式・社債等)でも述べましたが、金銭債権その他可分債権ということですので、審判の対象にはなりません。

ですから、相手方Cが任意に支払ってくれるようであれば、その方法について調停で話し合い解決するということになります。しかし、その支払が期待できない様であれば、Bは調停の取下げをして、Cに対する金員請求訴訟(但し、引き出された額のうちBの相続分である1/2についてのみ)を起こすことになります。
ただ、Cが単純にこれを認めるのは稀で、大概は「特別受益」の主張か「被相続人の為に使った」という主張がなされます。今回は「特別受益」の主張を取扱い、次回に「被相続人の為に使った」という主張について検討します。

特別受益の主張
1)Cが「もらった」という主張
このような主張が認められるためには「Aの了解のもとにCが預貯金を引き出したというだけでは主張として十分でなく、それがAの贈与の意思に基づくものであったということまでの主張が必要である」とされています(東京家庭裁判所家事第5部編著「特集遺産分割事件処理の実情と課題〈以下、実情と課題といいます。〉」判タ1137号92頁)。

2)Bの特別受益であるという反論
そしてCが「もらった」ということを主張するのであれば、それは「贈与」を受けたということになります。更に、それが「生計の資本としての贈与」であれば、「もらった」分が特別受益として具体的相続分を算出する過程で差し引かれる結果、Cの具体的相続分は0円、即ち、何も相続できないということも生じます(903条)。具体的相続分を算出することは審判等で必要なことなので、このような主張であれば、使途不明金の探求は調停・審判でなされます。

しかし、Cに対する超過特別受益があったとしても、Bはその分の返還を求めることはできません(903条2項)。従って、例えば、遺産分割を求める財産が、その使途不明金のみであって、それが「もらった」ものであれば、Cのところに残存していても、Aの遺産としては「ない」のですから、審判しようにも分割すべき遺産がないということなので、結局、審判にはならないということです。

※特別受益及び超過特別受益については以下を参照下さい。
具体的相続分①法定相続分との違い
具体的相続分とは②特別受益の計算例と立証のポイント

【関連コラム】
遺産分割審判とは①判決との違いと注意点(公開・既判力との関係)
遺産分割審判とは②手続きの流れと調停との関係
遺産分割審判の対象となるもの①物権等(不動産や賃借権等)
遺産分割審判の対象となるもの②債権等(金銭債権・預貯金・株式・社債等)
遺産分割審判の対象となるもの③現金
遺産分割審判における使途不明金①預貯金の調査と付随問題
遺産分割審判における使途不明金③死亡前の引き出し(被相続人の為にしたという主張)
遺産分割審判における使途不明金④死亡後の引き出し

【コラム執筆者】
村上・新村法律事務所
弁護士 村上博一

事務所HP :
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