遺産分割協議が成立していない場合における銀行預金の払戻し

掲載日 : 2013年9月17日

被相続人(死亡した人)が銀行等の金融機関に預貯金を有していた場合、金融機関がその預金者の死亡を把握すると、預金口座は凍結されます。
特に遺言もなく、遺産分割協議も成立していない場合、各相続人は金融機関に払戻しを請求することができるのでしょうか。

判例の見解
判例は、預貯金等の金銭債権は分割債権であり、相続開始とともに法律上当然に分割され、各相続人は法定相続分に応じた権利を承継するとしています(最1小判昭和29年4月8日)。
このため、各相続人は遺産分割協議を行わなくても、各法定相続分に応じて単独で銀行に払戻しの請求を行うことができます。
また、当然に分割されて承継する権利であるため、そもそも遺産分割の対象となりません。

金融機関の実務
ただ、判例の見解とは異なり、金融機関では、相続争いに巻き込まれたくないという本音からか、「遺産分割協議前であれば相続人全員の同意のもとに、また分割協議成立後であれば遺産分割協議の内容に従い、払い戻す。」とする例が多いです(五味外監修「銀行窓口の法務対策3800講Ⅰ」きんざい799頁以下)。

すなわち、遺産分割協議が成立していない場合、金融機関は相続人全員の同意書を求めるため、各相続人が単独で法定相続分の払戻しを受けることが難しい場合が多いと思われます。

【近年のうごき】
最近でこそ「従来どおりに共同相続人全員の合意や遺産分割協議書の提出を依頼し、これに応じてもらえる場合には、それを待って払戻しに応ずるに越したことはないが、相続人である払戻請求者から提出を受けた資料等により相続預金の帰属者およびその帰属する範囲が問題なく確認できる場合には、原則として法定相続分に従った一部の払戻しに応ずるべきである。」とされるようになりました(前掲五味826頁以下)。
ただし、「問題なく確認できる」という点がポイントで、必ずしも円滑な対応をされるとは限りません。

【金融機関が預金者の死亡を知った場合の措置】
おまけに、被相続人が死亡した場合、何かと物要りで、現金が必要になることが多いですが、金融機関では「銀行が預金者の死亡を知った場合は、マニュアル等に従い、コンピューターに預金者死亡の登録をしてオンライン等での支払を禁止するなど、銀行の不注意によって預金が支払われたり、または引き出されたりしないように必要な措置をとる。」ともされています(前掲五味798頁以下)。

預貯金をスムーズに現金化するための事前対策
ですから、このような事態に陥らないよう、相続財産に預貯金がある場合は、公正証書遺言をし、弁護士等の中立的な専門家を遺言執行者と指定しておく方が無難です。このような遺言であれば、中小企業庁も関係している事業承継関連相続法制検討委員会が、特段の事情のない限り、金融機関は免責されるべきであるとの提案をしたからです(金融法務事情1783号30頁以下)。
こうした対策をとっていれば、遺言執行者を通じて、速やかに預金を現金化できます。

【コラム執筆者】
村上・新村法律事務所
弁護士 村上博一

事務所HP :
http://www.m2-law.com/