遺産分割協議の進め方②相続人等の確認(藁の上の養子)

掲載日 : 2013年9月12日

遺産分割は「共同相続人」の協議によるのが原則です(907条1項)。相続人かどうかは、先ずは戸籍で確かめられます。

藁の上の養子
その場合、他人の子供を自分の子供として届出しているときがあるので、注意が必要です。
その動機は様々ですが「藁の上の養子」といわれるものが典型です。
藁の上の養子とは、子供のいない夫婦が生まれたばかりの子供を養子にする際、それが戸籍上判明しないようにする等のため、最初から自分達の子供として届出るものです(※1)。

しかし、この場合戸籍上親子と記載されていても、真実の血縁関係はないので実子と扱う訳にもいきません。また、養子縁組は要式行為とされているので「藁の上の養子」を正式な養子とみることもできません(最2小判昭和25年12月28日判タ9号50頁)。

このようなときには、関係当事者の認識が一致する場合も多く、戸籍上子供と記載されている者から、相続辞退(この場合、相続分がないことの証明書がつくられることが多いです。)や相続放棄といった対応が採られることも多いようです(※2、3)。

実親子関係存否確認の訴え
ただ、お互いに認識の一致がみられないようなら、実親子関係存否確認の訴え(人事訴訟法2条2号)によって解決されない限り、決着はつかないことになります。
つまり、被相続人(養親)の死亡により、他の相続人(それは、養母であったり、養親の実子であったりします。)から、実子でないことを主張される場合があるということです。

しかし、戸籍上の子供と記載されている者(藁の上の養子)は長年自分が実子であると信じて生活しています。このような場合、最2小判平成18年7月7日(家月59巻1号98頁以下)は「戸籍上自己の嫡出子として記載されている者との間の実親子関係について不存在確認することが権利の濫用に当たらないとした原審の判断に違法がある」としました。
すなわち、このような主張が権利の濫用にあたる場合があるとしています。

確かに、戸籍上の子供と記載されている者と被相続人との間における「実親子関係がない」という主張は正当なものです。しかし、長年にわたり親子として生活してきた事実を勘案すれば、「実子でも養子でもない」という主張を認めることは著しく社会的相当性を欠くという判断が下されたということです。

なお、この判決では、①生活の実体があった期間の長さ、②実親子関係が否定されることによりその(養)子及びその関係者が受ける精神的苦痛・経済的不利益、③改めて養子縁組の届出をすることにより嫡出子としての身分を取得する可能性、④実親子関係の不存在確認請求をした側の経緯や動機、目的、⑤その不存在が確定され「ない」とした場合にかかる請求をした者以外に著しい不利益を受ける者の有無、等の諸般の事情を考慮し、権利の濫用にあたる場合か否かの判断をすべきとの一般的基準を示しています。

この結果、戸籍上の子供と記載されている者は、本来相続権を有しないにも関わらず、権利の濫用という法理を用いることにより、例外的に相続権が認められたとことになります。
確かに、これは事例判決ですが、一般的に支持されていることには注意しなければなりません。

※1【特別養子制度
現在は「藁の上の養子」といった事態を回避すべく、特別養子制度(817条の2以下)が生まれ、実親の戸籍から子を抜き出して子単独の(中間)戸籍を編成し、そこから養親の戸籍に子を入籍させるといった方法を採ることができることになっています(戸籍法20条の3)。

※2【相続分がないことの証明書
それなりの生前贈与を受けた場合、その者には「具体的相続分」がないときがあります(903条2項、具体的相続分の詳細は「具体的相続分とは①法定相続分との違い」を参照してください)。この場合に作成されるのが、本当の意味での「相続分がないことの証明書」です。

ただ、相続を辞退するとき、生前贈与の事実がなくても、このような証明書がつくられることが多いです。

※3【相続放棄との違い
本来ならば、相続放棄すべきなのでしょうが、相続放棄は3箇月以内に家庭裁判所に申述するといった手続(915条1項、938条)が必要です。一方、相続分がないことの証明書は、その者の署名と判子で足りる簡便な方法として広く利用されている様です。前述したような二次相続の問題が生じるのも防ぐことができます。
しかし、相続放棄をした場合、その者は「初めから相続人とならなかったものとみなす」とされます(939条)が、相続を辞退し「相続分のないこと証明書」を作成したに過ぎない場合は、相続人たる地位を有したままです。なので、例えば、被相続人に債務があった場合その者は相続分に応じて債務を承継することになるので、注意が必要です。

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【コラム執筆者】
村上・新村法律事務所
弁護士 村上博一

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