具体的相続分とは②特別受益の計算例と立証のポイント

掲載日 : 2013年9月4日

具体的相続分の計算にあたって、共同相続人間の実質的公平を図るため、相続人が被相続人の生前に相続分の贈与を受けた分を考慮することになります。

民法903条1項にいう贈与は、単なる「贈与」ではなく「生計の資本」等としてのものである必要があります。その意味で「特別受益」とも称されます。

この点は、よく争いが生じるところであり、以下の例で検討してみます。

母Aが死亡(既に父は死亡)した場合に子として姉妹B、Cと弟Dがいます。
Aが、死亡時、甲土地建物(時価2,000万円相当)と乙マンション(時価1,000万円相当)を有していたとします。ところが、Dは学生時代に海外留学費(以下、留学費といいます。)として1,200万円の援助を生前Aから受けていた気配があります。

この場合、Dとしては「援助を受けた留学費は120万円で特別なものではない。」と主張することもあります。むしろ「Bは結婚の際の持参金(以下、持参金といいます。)として、Aから1,200万円を貰っているので、それこそ特別受益だ。」と言い返します。
これに対し、Bとしては「持参金は120万円しか貰っていない。Dこそ1,200万円援助して貰ったくせに嘘をついて。」と反論することになるでしょう。

特別受益の計算例と検証
ただ、この場合注意が必要です。
特別受益と認められるか否か、また認められる程度により、争わないで何もしない方が得策となる場合もあるからです。

1)特別受益が等しく認められた場合
例えば、Dとしては「Bの持参金が1,200万円であったこと」についての立証に熱中しがちです。そして、裁判所が「Bの持参金が600万円であって、Dの留学費が600万円であり、何れも特別受益にあたる」と認定すると、引き分けた感になります。
しかし、その場合、Dの具体的相続分は以下の通りとなります。

ケース2 : 特別受益 B=D
Dの具体的相続分800万円
=みなし相続財産(甲+乙+持参金600万円+留学費600万円=4,200万円)×1/3
-留学費

ちなみに、B、D互いの特別受益が認められなかった場合、Dの具体的相続分は以下の通りとなります。

ケース3 : いずれの特別受益が認められない場合
Dの具体的相続分1,000万円
=みなし相続財産(甲+乙=3,000万円)×1/3

ケース2とケース3を比較すると、200万円の損をしている訳です。これなら、お互い「まぁまぁ」と胸の内に納めておいた方が得です。

2)立証比重の置き方
①相手方が特別受益を得ていた点を立証した場合
例えば、そこから「B>D」となるよう、更なる特別利益300万円の立証に力を注ぐにしても、この努力を相手方がより多くの特別受益を得ていた点に立証の比重を置いた場合はどうなるか。仮に、その努力が認められて、 裁判所に「Bの持参金が900万円であって、Dの留学費が600万円であり、何れも特別受益にあたる」と認定してもらったとしても、Dの具体的相続分は以下の通りとなり、ケース3と比較してまだ100万円の損です。

ケース4 : 特別受益 B>D
Dの具体的相続分900万円
=みなし相続財産(甲+乙+持参金900万円+留学費600万円=4,500万円)×1/3
-留学費

②自己の特別受益が少なかった点を立証した場合
それよりか、むしろ、Dとしては、自ら貰った特別利益がより少なかったという点に立証の比重を置いて、裁判所に「Bの持参金が600万円であって、Dの留学費が300万円であり、何れも特別利益にあたる」と認定してもらうと、Dの具体的相続分は以下の通りとなり、ケース3と比較してイーブンになります。

ケース5 : 特別受益 B>D
Dの具体的相続分1,000万円
=みなし相続財産(甲+乙+持参金600万円+留学費300万円=3,900万円)×1/3
-留学費

3)相手方のみ特別受益と認められた場合
進んで、裁判所に「Bの持参金が600万円であって、Dの留学費が300万円なので、前者は特別受益にあたるが、後者はこれにあたらない」と認定してもらえると、Dの具体的相続分は以下の通りとなり、ケース3と比較して200万円の得になります。

ケース6 : 相手方(B)のみ特別受益と認められた場合
Dの具体的相続分1,200万円
=みなし相続財産(甲+乙+持参金600万円=3,600万円)×1/3

特別受益の立証のポイント
つまり、Dにしてみれば「B>D」という状況を立証するにしても「Bの持参金が多かったこと」より「Dの留学費が少なかったこと」に立証の比重を置く方が得策であり、進んで「Dの留学費は特別受益にあたらないこと」を立証する方が得だということになります。

このとおり、特別受益については、攻めよりも守りの方が大切なことが多く、この点強く認識しておくべきでしょう。

超過特別受益
民法903条2項は「贈与の価額が、相続分の価額…を超えるときは…受贈者は、その相続分を受けることができない。」としています。

例えば、Dが留学費として1,800万円の援助を受けていたとすると、
Dの具体的相続分は以下の通りとなります。

ケース7 : 超過特別受益
Dの具体的相続分▲200万円
=みなし相続財産(甲+乙+留学費1,800万円=4,800万円)×1/3-留学費

同条項は「(具体的)相続分を受けることができない」としているだけなので、Dは▲200万円分を追加して支払う必要はないということです。これは「超過特別受益」の取り扱いといわれる問題です。

【関連コラム】
具体的相続分とは①法定相続分との違い
具体的相続分とは③寄与分の計算例と特別受益との比較

【コラム執筆者】
村上・新村法律事務所
弁護士 村上博一

事務所HP :
http://www.m2-law.com/