自筆証書遺言の誤記訂正の有効性

掲載日 : 2013年8月31日

遺言は厳格な要式行為として、「この法律に定める方式に従わなければ、することができない」とされ(960条)ており、その方式=要件を充たさないと無効となります。

自筆証書遺言は簡便なため、多く利用されていますが、要式性を欠いて無効になるケースも多く見られます。誤記の訂正についても、その遺言書が有効と認められるためには、原則として、法が定める要式通りに訂正を行う必要があります。
この点、要式に従ってはいないものの、明らかな誤記を訂正した場合、どのように取り扱われるのでしょうか。

明らかな誤記の訂正
1)遺言書が有効とされた例
遺言の記載自体から判断して、明らかな誤記の訂正については、要式に違背(違反)があったとしても、遺言は有効(最2小判昭和56年12月18日)とされています。このように判断された遺言書は以下のようなシンプルなものでした。

遺言書

「私は今まで遺言書を書いた記憶はなが(※)、もしつくった遺言書があるとすればそれら遺言書は全部取消…
※これは「記憶はないが」の意であることは全体の趣旨から明瞭であるとされた。
訂正等

① 「それら」の前にあった「そ」という字を×で消し、
②「遺言書は全部」の前の行に「ユ」と書きかけた字を放置
③「取消…」との記載を数本線で消して次の行の下方に「取消す」と記載
④以上三ヵ所には署名押印と同一の印章による押印がなされていた

確かに、この遺言書は書き損じた部分の訂正について、法が定める所定の要式を満たしているとは言えません。しかし、遺言書の記載自体から判断して、この明らかな誤記の訂正は要式を欠いているといえども、遺言者の意思を確認し得るとして遺言書の効力は認められました。
(太田「自筆証書遺言における明らかな誤記の訂正について方式違背がある場合と遺言の効力」判評283号30頁以下)。

2)法律上の解釈が問題になる例
注意しなければならないのは、最近の自筆証書遺言に関する事案報告で「私の遺産の全部を長男に承継する。」という遺言の「承継する。」という部分を線で抹消し横に「相続させる。」と記載した例が紹介されているということです(久貴編「遺言と遺留分第1巻遺言[第2版]」小田執筆-自筆証書遺言の実態」111頁日本評論社)。それは、素人が遺言作成後何らかの法律相談を受けそれに基づき自ら遺言を変更したものとも考えられます(同様に法律相談を受けた後の訂正事案を紹介するものとして、中川外編「新版注釈民法(28)相続(3)久貴執筆-自筆証書による遺言」有斐閣104頁)。

承継と相続
確かに、昭和56判例の事案は明らかな誤記訂正といえなくはありませんが、上記事案報告による「承継する。」を「相続させる。」に変更する場合はどうでしょうか。
「相続させる」は前述した香川判決によれば「遺産分割方法の指定」ということになりますが、「承継する」は「遺贈」とも解釈できます(香川判決については子供のいない夫婦の遺言②具体的な遺言の方法(不動産)を参照ください。)。

素人からすれば、ちょっとした言葉の違いですが、法律的にこの差をどのように考えるかが問題となります。これを、明らかな誤記に過ぎないと言い切れるか、プロの目からしても悩ましい問題です。その意味で、自筆証書遺言については、素人が作成する段階で難しい部分もある外、これについての専門家のアドバイスの仕方も難しいといえます。

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【コラム執筆者】
村上・新村法律事務所
弁護士 村上博一

事務所HP :
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