自筆証書遺言の要件①全文自書

掲載日 : 2013年8月27日

遺言は厳格な要式行為として、「この法律に定める方式に従わなければ、することができない」とされ(960条)ており、その方式=要件を充たさないと無効となります。

自筆証書遺言の要件は、「遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない」とされています(968条1項)。自筆証書遺言は簡便なため、多く利用されていますが、要式性を欠いて無効になるケースも多く見られます。
そこで、自筆証書遺言の要件のうち、全文自書に関して日常的に問題になる点について検討してみたいと思います。

全文自書でなければならない
添え手がなされた場合も有効とした例があります。しかし、それは、全文自書が求められた理由を「筆跡によって本人が書いたものであることを判定でき、それ自体で遺言が遺言者の真意に出たものであることを保障することができるからにほかならない」とした上で、以下の厳格な要件においてのみ許されるとした判断であることに注意する必要があります(最1小判昭和62年10月8日判タ654号128頁以下)。

  • 遺言書作成時に自書能力があったこと
  • 添え手が単に始筆若しくは改行にあたり若しくは字の間配りや行間を整えるため遺言者の手を用紙の正しい位置に導くにとどまるか又は遺言者の手の動きが遺言者の望みにまかされており遺言者は添え手をした他人から単に筆記を容易にするための支えを借りただけであること
  • 添え手をした他人の意思が介入した形跡のないことが筆跡のうえで判定できること

ワープロ、コピーによるもの
ワープロ、コピーによるものは無効となります。平素もっぱらタイプライターを使用しており、自らタイプして作成された英国人作成の自筆証書遺言を有効とした例(東家審昭和48年4月20日家月25巻10号113頁以下)もありますが、一般化するのは危険といえます。

物件目録のワープロ書きについては「タイプ印書された右不動産目録は、本件遺言書の中の最も重要な部分を構成し、しかも、それは遺言者自身がタイプ印書したものでもない」といったケースについて、その効力を否定したものがあります(東高判昭和59年3月22日判タ527号103頁)。

ただ、このような判例の結論を支持しながらも「一般的にみて、添付の不動産目録がいわば念のために付加された明細書のごときものであれば、それなしでも遺言者の意思は明確であり、目的物件は特定できるから、遺言の効力に影響を与えない」とする見解(上野「タイプ、ワープロによる遺言」判タ688号305頁以下)もあります。

写真・図面等の使用
特に図面等については「遺言の対象や内容を明確にするために写真・図面及び一覧表等を用いること一切を否定するものではなく、遺言者が図面等を用いた場合であっても、図面等の上に自筆の添え書きや指示文言等を付記し、あるいは自筆書面との一体性を明らかにする方法を講じることによって、自筆性はなお保たれ得る」とした例もあります(札高決平成14年4月26日家月54巻10号54頁以下)。

遺言書という表題が必要?鉛筆書きでも良い?
全文自書であればよく、遺言書という表題を欠いてもかまわないし、鉛筆書きでもかまいません。但し、前者はそれが遺言書かどうか争われる可能性があり、後者は消されてしまうと意味がないので、やはり遺言書という表題を自書するのが望ましく、筆記用具も筆墨、万年筆、ボールペン、マジックペン等簡単には消せないものによることが望ましいと言えるでしょう。

なお、カーボン複写による自筆証書遺言を有効とした例があります(最3小判平成5年10月19日判タ832号78頁以下)。カーボン複写はコピーの普及により、領収書以外、最近はあまり見掛けなくなりましたが、遺言は性質上、その作成日と効力発生日即ち遺言者の死亡日との間にズレが生じるものであり、昔カーボン複製で作られた遺言に現在出くわす機会がないではなく、また、著名な判例でもあることから紹介しておきました。

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【コラム執筆者】
村上・新村法律事務所
弁護士 村上博一

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