遺言能力とは①遺言無効に関する基礎知識

掲載日 : 2013年8月21日

遺言には判断能力=意思能力が必要
例えば、判断能力を欠く常況(7条)にある者が後見開始の審判を受けると、その者は成年被後見人として、その法律行為を取り消すことができます(8条、9条)。つまり、成年被後見人は、行為無能力者とされ、一人で確定的に有効な法律行為をする能力がありません。

ところが、遺言については、この行為能力に関する制限は解除(962条)され、例えば、成年被後見人としては、判断能力を一時回復した時、医師二人以上の立会いの下、それらの医師が判断能力を欠く状態になかった旨を遺言に付記し署名・押印すれば、遺言することができます。

つまり、民法では、判断能力=意思能力があれば遺言能力はあり、遺言はできるとされています。

反対に、判断能力=意思能力がなければ、遺言能力はないとされ、遺言が存在したとしても、当該遺言は無効となります。

遺言能力ないことを立証することの難しさ
意思能力=遺言能力は誰しも備えているのが一般的であり、遺言者にはこれがなかったと主張する方が遺言能力のなかったことを立証する必要があります(畠山外「遺言無効確認請求事件を巡る諸問題」判タ1380号4頁以下、特に9頁以下)。

しかし、現実に成立した遺言を、遺言者には遺言の当時その能力がなかった(963条)として、その効力を否定することは中々容易ではありません。

特に、遺言は、要式行為(960条)とされ、一定の方式を欠くと無効になります。利用されることの多い自筆証書遺言については「遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない」とされていること(968条1項)から、とりあえず、遺言者には文書を書く能力があったことが伺えます。
また、公正証書遺言については「証人二人以上の立会いがあること。遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること、遺言者及び証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し、印を押すこと。公証人が、その証書は前各号に掲げる方式に従って作ったものである旨を附記して、これに署名し、印を押すこと」とされていること(969条)から、遺言者には口授ができる、公証人の筆記の正確性を承認できるといった能力があったことが伺え、これについての証人(立ち会った二人と公証人)も必要となります。

遺言無効確認の訴えを提起できる者
このように、遺言した当時において遺言能力を欠いていたことを立証することは容易ではないにもかかわらず、遺言能力を欠いた時点でなされたものとして当該遺言は無効であると争われる例は多く見られます。その多くは遺言無効確認の訴えという形式を採ります。

そのようして無効主張をする者は、当該遺言によって不利益を被る者であると言えます。具体的には、当該遺言しか存在しない場合は、当該遺言によって利益を奪われる他の法定相続人となります(なお、最1小判平成6年10月13日は、特別縁故者は遺言無効確認の訴えを提起できないとしています。)。

また、当該遺言より前の遺言が存在する場合、遺言の撤回は自由であり(1022条)、当該遺言と抵触する前の遺言の効力が失われること(1023条)から、前の遺言によって利益を受けていた者が、当該遺言によって利益を奪われたとして遺言無効の主張をする例も多く見られます。

これらの点からすれば、相続紛争は、被相続人が死亡した後に発生するものですが、被相続人が存命中の遺言書作成の時点で既に相続争いの前哨戦が繰り広げられていると言ってもいいでしょう。

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【コラム執筆者】
村上・新村法律事務所
弁護士 村上博一

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