賃貸借トラブル(賃借人が夜逃げにより荷物を残置した場合)

掲載日 : 2013年8月19日

賃借人の夜逃げにより発生する問題
建物の一室を他人に賃貸していたところ、賃借人が突然いなくなり連絡が取れなくなってしまった、という相談を受けることがあります。

この場合、貸していた部屋がきれいに片付いていれば、賃貸借契約を解除して次の賃借人に貸すことができます。もし未払いの賃料があれば、預かっている敷金から充当して回収することになります。

問題は、家賃を滞納した挙げ句、家具や荷物がそのまま放置されているケースです。このような場合、賃貸人はどうすべきでしょうか。

まず、未払い賃料がある場合には、敷金から差し引いて充当する、連帯保証人に払ってもらう等の手段が考えられます。この辺りは、金銭を貸したのに返してもらえない、という話と大差ありません。

このケースで頭を悩ませるのは、不動産内に放置された家具や荷物です。これを片付けない限り、賃貸人は当該不動産を他に貸すことができず、賃料収入等の収益を得られないことになります。もちろん、賃貸借契約が継続していれば賃料が発生し続けますし、賃貸借契約が終了すれば、契約終了後の荷物放置は不動産所有権の侵害に当たりますから、賃料相当額の損害賠償請求も考えられます。

しかし、すでに夜逃げしてしまった人に対して請求権を得たとしても、実際の回収は困難であり、意味がないケースも多々あります。

民事訴訟を利用した解決手段
では、賃貸人は、放置された荷物を勝手に処分してしまっても良いのでしょうか。賃貸人からすれば、家賃を滞納した挙げ句に荷物まで放置されているわけですから、そのくらい当たり前だと言いたくなります。

しかし、法律上は、いくら正当な権利であっても、自分で勝手に正当だと判断して行使してはいけません(自力救済の禁止)。どれだけ自分が正当であると思っても、しかるべき判断機関(裁判所等)に正当性を判断してもらって初めて権利として行使できるのであって、自分で勝手に正当だと判断して権利行使をしてはいけないということです。

したがって、賃貸人は勝手に荷物を処分することはできず、この場合は、建物の明渡しと未払賃料の支払いを求める訴訟を裁判所に提起し、判決を得た上で、強制執行手続によって放置された賃借人の荷物を処分する、これが法律に則した手続ということになります。

ですが、訴訟や強制執行手続には時間がかかりますし、費用もかかります。裁判所に訴訟を提起して判決をもらい、強制執行手続によって実際に部屋の中の荷物をすべて処分し終えるまでに少なくとも数ヶ月はかかりますし、場合によっては数十万円の費用がかかることもあります。

これ以外に、もっと簡単な方法は無いのでしょうか。

連帯保証人は家財道具の処理ができるか
もっとも有効な方法は、何とかして夜逃げした賃借人を見つけ出し、荷物を片付けさせることです。連帯保証人が賃借人の家族等である場合、連帯保証人から居場所を聞けるケースもあります。とは言え、うまく見つけられるケースはそう多くはありません。

次に、連帯保証人に残った荷物を片付けさせるという方法があります。誤解があるといけませんが、いかに連帯保証人であっても、原則として荷物を片付ける義務まではありません(契約書にこのような義務を記載した場合であっても、無効とされる場合があります)。ただ、明渡しが遅れれば未払い賃料が増え続け、連帯保証人の債務も膨らむわけですから、荷物を早く片付けることは連帯保証人にもメリットとなるわけで、協力してもらえる可能性はあります。しかしながら、連帯保証人であっても、他人である賃借人の荷物を勝手に処分しても良い権限があるわけではありませんから、後々、賃借人から「勝手に荷物を処分された」とクレームをつけられる可能性は残ってしまいます。「勝手に処分したところで、夜逃げした賃借人が戻ってくることなんてあり得ないのだから、そんな心配しないで処分してしまえばいい。」と考えたくもなりますが、勝手に荷物を処分することは、刑法上の窃盗罪に問われる可能性もあるため、このような手段も勧めにくいものです。

結局、時間と費用がかかってしまいますが、一番適切な手続は、上記のとおり裁判所を利用した強制執行手続ということになります。

リスク回避の予防措置
したがって、賃貸借契約を締結するときには、後々トラブルに遭った場合、時間と費用がかかってしまうということを頭に入れた上で、できるだけリスクを軽減できるようにしておくことです。具体的には、敷金を確保しておくこと、しっかりした連帯保証人をとること等の予防措置をとっておくことが重要ということになります。なお、契約書に「賃貸借契約終了後には、賃貸人は残置物を自由に処分できる」旨の条項が入っていることもありますが、かかる条項によっても当然に賃貸人による処分が可能となるわけではなく、勝手に処分をして違法と判断された例もあります。

長々と書きましたが、ここに書いた話はあくまで一般論であり、個々のケースによっては、もう少し違った解決ができる場合もあります。例えば、連帯保証人が賃借人の親である場合と、ただの賃借人の友人というケースでも対応は違ってくるでしょうし、また、貸していたのが部屋ではなく駐車場だったら、というケースでも少し話が違ってきます。

いずれにしても、いきなり勝手に荷物を処分してしまうことはトラブルの元ですので、このようなトラブルに遭ったら、近くの弁護士にご相談ください。

【コラム執筆者】
中本総合法律事務所
弁護士 宮崎慎吾