貸主が破産した場合における賃貸借契約と立退き

掲載日 : 2013年8月18日

時々「貸主が破産したという通知書が届いたのですが、この後、どうすればいいのでしょうか?」というご相談をお受けするときがあります。

貸主が、金融機関から借入をしてマンションを建設し、賃貸マンション経営をしていた場合、あるいは金融機関から借入をしてマンションを購入し、そのマンションを賃貸していた場合、そのマンションについて、金融機関は抵当権の設定を受けているのが通常でしょう。このような貸主が破産した場合、借主としては、どのように対処されればよいのでしょうか?

貸主が金融機関から借入をして抵当権の設定登記を行った時点と、借主が賃貸物件の引渡しを受けた時点の前後により扱いが異なります。

A.賃貸物件の引渡しが抵当権の設定登記に先行する場合
借主への賃貸物件の引渡し(借地借家法31条1項)が金融機関に対する抵当権設定登記よりも先行する場合、借主は、その金融機関に対して賃借権を対抗することができます。すなわち、借主は競売が実行されたとしても、従来と同じ契約内容で賃貸物件に住み続けることができます。

(1)貸主が破産開始決定を受けた後、競売が実行されるまでの間
貸主が破産開始決定を受けた場合、貸主の賃貸物件の管理処分権は、破産管財人に帰属します(破産法78条1項)。

そして、貸主が破産した場合でも、残りの賃貸借期間については、賃貸借契約が存続する状態となります。しかし、貸主の破産という自分には全く関係のない事情によって、生活や事業の本拠である不動産を利用する権利を失い、賃貸物件を明け渡さざるをえないというのでは、借主にとって酷です。そのため、破産管財人が賃貸借契約を解除することは認められていません(同法56条1項)。

借主としては、破産管財人に家賃を支払うことになります。

(2)競売が実行された後
賃貸物件が競売にかけられたとしても、借主は、新所有者(競落人)に自分の賃借権を主張することができ、新所有者を貸主として、これまでと同一の契約内容で賃貸物件を借り続けることができます。

借主としては、新所有者に家賃を支払うことになります。

もっとも、新所有者は自分が家主であると借主に主張するためには、所有権移転登記を取得する必要があるとされています。そのため、借主としては、家賃の二重払いを避けるためにも、新所有者から登記簿謄本の提示を受けて、登記名義を確認されるのがよいでしょう。

B.抵当権の設定登記が賃貸物件の引渡しに先行する場合
金融機関に対する抵当権設定登記が借主への賃貸物件の引渡しよりも先行する場合、借主は、その金融機関に対して賃借権を対抗することはできません。すなわち、競売が実行された後、新所有者から退去を求められた場合、借主は、退去しなければなりません。

(1)貸主が破産開始決定を受けた後、競売が実行されるまでの間
上記A(1)と同じようにお考えいただいて結構です。

賃貸物件に抵当権が設定されていて、貸主の賃借権がその抵当権に劣後する場合であっても、破産管財人は、賃貸借契約を解除することはできません。そのため、借主は、破産管財人に対して従前どおり家賃を払い続ければ、賃貸物件を使用し続けることができます。

したがいまして、借主は、すぐに賃貸物件を明け渡す必要はありません。

(2)競売が実行された後
競売が実行されますと、原則として賃借権は消滅しますので、新所有者(競落人)から退去を求められた場合には、借主としては、退去せざるを得ません。

改正民法施行後(平成16年4月1日以降)は、短期賃貸借という制度が廃止され、明渡猶予制度が設けられています。この制度により、借主は、競売手続の開始前から賃貸借契約に基づいて賃貸物件に住んでいる場合、新所有者の買受けの日から6か月間は明渡しを猶予されることになります(民法395条1項)。

但し、借主は、新所有者に対して、上記の期間の家賃相当額を支払わなければなりません。借主が家賃相当額の支払請求を受けたにもかかわらず、支払わなかった場合には、借主は、新所有者に対して、直ちに賃貸物件を明け渡さなければならなくなります。

【コラム執筆者】
えにし法律事務所
弁護士 矢倉 良浩