資産を細分化しないための遺言②敷金・株式等の相続に関する問題点

掲載日 : 2013年8月16日

相続税対策として、現金・預貯金を不動産化することはよくあります。ここでは、以下を例にして、資産を細分化しないために遺言を活用するにあたり、①賃貸マンション等の収益物件の敷金の取扱い、②不動産が法人(被相続人が100%株主)により所有されていた場合の注意点を説明したいと思います。

生前Aが、妻Bの生活のために、銀行Xから融資を受け、Yをテナントとする(以下、Yといいます。)賃貸マンション甲(以下、甲といいます。)を購入し、Yからの賃料収入でXからの融資金の返済をしていました(なお、他の相続人としては、子Cがいるものとします。)。

敷金等の問題点
不動産を有益に相続させようとすれば、その利用に資する不動産も合わせて相続させないと意味がありません。そこで、甲をBに相続させる場合には、甲に必要な、道路等に関する用地、電気、水道、ガス設備等に関する用地も合わせてBに相続させる必要があります。

一点、難しい問題として、敷金の取り扱いがあります。例えば、AがYから敷金を受け取ってXの普通預金口座にでも預けていた場合、どのような法律関係になるのでしょうか。

この点、賃貸建物が売買された事案についての判例によれば、建物所有権が第三者に移転した場合は、特段の事情のない限り、賃貸人としての地位も当然第三者に移転する(最小2判昭39年8月28日)とされ、旧賃貸人に差し入れられた敷金の返還債務も新賃貸人に承継されるとされています(最小1判昭44年7月17日)。

これと同じように考えれば「甲をBに相続させる」旨の遺言がなされた場合、Yとの関係でBは、賃貸人たる地位を取得し敷金返還義務者としての地位も取得することになります。しかし、特に、後者の敷金については意見の対立もあるようで、前回説明した昭和29年判決や平成21年判決に照らしてみる(資産を細分化しないための遺言①特定の資産の相続)と「当然」Bのみが敷金返還義務者になる訳ではないと解する余地もありそうです。

ただ、Bが全額の敷金返還義務者たる地位を相続する可能性も十分ありえるので、このような場合は、単に甲だけではなく甲の敷金が入っているXの普通預金口座もBに相続させる必要があるということです(なお、預金債権について相続させる旨の遺言をする場合の注意点については「子供のいない夫婦の遺言③具体的な遺言方法(預貯金)」を参照ください。)。

不動産を所有するのが株式会社(被相続人が100%株式を保有)であった場合
最後に、仮に、Aが、直接甲を購入したのではなく、自らが100パーセント株式を有すZ株式会社(以下、Zといいます。)をして、甲を所有せしめ、Xから借入をし、Yに賃貸していた場合はどうでしょうか。

この場合、Aの死亡によっても、甲の所有権やX、Yとの法律関係に変動は生じないので、比較的安定した状態になります。ただ、問題は、Zの株式の帰属です。遺言をしないままでいくと、Zの株式はB、Cが準共有(264条)することになりますが、それぞれが2分の1しか持ち分を有さず、過半数に達しないので、それぞれの意見が対立すると、両すくみ、デットロックの状況に陥ります。会社法106条にいう「当該株式について権利を行使する者一人の定め」をすることができなくなる訳です。

このような事態を避けるためには、前述したのと同様「BにZの株式を相続させる」旨の遺言をすることが効果的です(子供のいない夫婦の遺言②具体的な遺言の方法(不動産)。)。

なお、類似の結論は、Zの株式をBに生前贈与する方法によっても実現可能です。この場合、Cとの関係で遺留分に関する民法の特例(中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律4条)。を使うことも可能ですので、関心がある方は弁護士その他の専門家にご相談ください。

【関連コラム】
資産を細分化しないための遺言①特定の資産の相続

【コラム執筆者】
村上・新村法律事務所
弁護士 村上博一

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