資産を細分化しないための遺言①特定の資産の相続

掲載日 : 2013年8月15日

戦後、家督相続が廃止され、それぞれの立場によって割合は異なるものの遺産は相続人に均等分割されることになりました(これを「均分相続制」といいます。)。しかし、それでは資産が細分化されるので、その対策として用いられてきたのが、一つの遺言の在り方です。

相続税対策として、現金・預貯金を不動産化することはよくありますが、以下を例にして、資産を細分化しないための遺言の使い方を説明したいと思います。

生前Aが、妻Bの生活のために、銀行Xから融資を受け、Yをテナントとする(以下、Yといいます。)賃貸マンション甲(以下、甲といいます。)を購入し、Yからの賃料収入でXからの融資金の返済をしていました(なお、他の相続人としては、子Cがいるものとします。)。

Aが死亡した場合に主として問題になるのは、①甲所有権の帰属、②Xに対する借入債務の帰属、③Yに対する賃料債権の帰属です。

  • 甲所有権の帰属
    何も対策を採らないままAが死亡した場合、甲は相続されBCの共有(898条)となり、それぞれの相続分は2分の1ずつということになります(899条、887条1項、890条、900条1号)。
  • Xに対する借入債務の帰属
    Xに対する借入債務ですが、最1小判昭29年4月8日は、分割債権・債務の原則を規定する民法427条を前提として「金銭その他の可分債権あるときは、その債権は法律上当然分割され、各共同相続人がその相続分に応じて権利を承継する」としているので、これもBCが各2分の1を承継することになります。
  • Yに対する賃料債権の帰属
    Yに対する賃料債権については、最1小判平成17年9月8日が「遺産は、相続人が数人あるときは、相続開始から遺産分割までの間、共同相続人の共有に属するものであるから、この間に遺産である賃貸不動産を使用管理した結果生ずる金銭債権たる賃料債権は、遺産とは別個の財産というべきであって、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得する」としていることから、これも甲の遺産分割協議が終了するまでの間はBCが半分ずつ取得することになります。

問題点
ただ、こうなると、Bとしては、Yに従来の半分しか賃料を請求できなくなりますが、Xへの月々の返済はYから賃料全額が入ることを当てにしていたと考えられますので、Xへの返済資金に窮することになります。

仮に、その不足分をB自ら調達してきたとしても、Xへの債務の半分はCが承継するものとしてBとの関係では第三者の債務にあたるため、Cの分を支払うには第三者弁済の手続による必要があります(474条)。

そしてこの点、手古摺っていると最悪Xへの滞納→期限の利益喪失→甲競売という結果にもなりかねません。ただ、それではBの生活を保障しようとしたAの意図に反する結果になります。

遺言の使い方
1)特定の不動産を特定の相続人に相続させる
こんなときは「Bに甲を相続させる」という遺言をするのが効果的です。相続させる旨の遺言については、いわゆる香川判決(最小2判平成3年4月19日)によれば、特定の遺産についてなされた「相続させる」趣旨の遺言は、遺産分割の方法を定めた遺言として「特段の事情のない限り、何らの行為を要せずして、被相続人の死亡の時(遺言の効力の生じた時)に直ちに当該相続人により承継されるものと解するべきである」とされています。

香川判決→子供のいない夫婦の遺言②具体的な遺言の方法(不動産)

従って、甲の所有権は直ちにBに承継されることになりますが、だとすれば、Yに対する賃料債権も直ちにBに帰属すると解することになります。上記平成17年最高裁判決は「相続開始から遺産分割までの間」の賃料債権に関するものなので、このように遺産分割が不要とされる場合にはあてはまりません。なので、BはYに賃料全額を請求できます。

2)特定の不動産を相続した場合の債務
問題は、Yから回収した賃料全額をもとにXに対する返済をスムーズになしえるかどうかです。この点、最小3判平成21年3月24日は、全ての財産を相続させる旨の遺言がなされた場合において「当該相続人に相続債務もすべて相続させる旨の意思が表示されたと解すべきであり、これにより、相続人間においては、当該相続人が指定相続分の割合に応じて債務を承継することになると解するのが相当である…遺言による相続債務についての相続分の指定は、相続債務の債権者…の関与なくされたものであるから、相続債権者に対してはその効力が及ばない…相続債権者の方から相続債務についての相続分の指定の効力を承認し、各相続人に対し、指定相続分に応じた相続債務の履行を求めることは妨げられない」としました。かかる判例の趣旨が、本事例のように「相続させる」旨の遺言が甲という特定の財産についてなされた場合において甲との関係で存在するXへの債務に及ぶのかということになりますが、その構造は類似しているので及ぶのではないかと思われます。Xとしても、債権管理の合理性としては、債務者をBCと分属させるよりはBに絞り込むことが便利と思われるので、甲の賃料収入からの返済が合理的に見込める場合はBを債務者として承認することは十分あり得ると考えます。このような場合には、BとしてもXへの債務の全額を自らの債務として返済できることになります。

このように考えると、上記①乃至③に関する問題点は解消できることになります。便宜上、子供をC1人としましたが、子供が複数あって相続人が増えるほど、上記のような問題が複雑化し、その分資産の細分化を防ぐための遺言が意味を増してくるということです。

【関連コラム】
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【コラム執筆者】
村上・新村法律事務所
弁護士 村上博一

事務所HP :
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