精神的障害のある子供のいる人の遺言②相続における財産問題

掲載日 : 2013年8月14日

母一人子一人で、しかも子供に精神的障害のある方が増えています。そのような方が遺言等をされる場合の問題点を、少し検討してみたいと思います(便宜上、母親をA、子供をBとします。)。

相続人不存在の可能性
財産はどうすればいいでしょうか。
このままでいれば、Aの財産を相続するのはBです(887条1項)。Aとしても、それで満足であればそれで十分でしょうし、Bが成年被後見人等であっても遺言能力は存在し(962条)公正証書を作成した例も報告されている(森山「成年被後見人を遺言者とする遺言公正証書の作成方式について」公証141号65頁)ので、B死亡後の財産処分はBに委ねるというのも一つの方法かもしれません。

ただ、Bも何もしないまま死亡したとすると、相続人不存在の場合になります。精神的障害のあるBは結婚もせず、子供もつくらず、早逝することも多いです。そして、このような場合、Cが特別縁故者と認められない限り、Bの財産、即ち、Aの財産は国庫に帰属することになります(959条)。しかし、そのような結論をAが必ずしも希望するとは限りません。Cが血縁であるなら、Cに与えたいと思うことも多いでしょう。

後継ぎ遺贈
この場合、後継ぎ遺贈という遺言が問題になります。それは多義的な概念ですが、狭い意味では「Aの財産をBに遺贈する。Bの死亡後はCに遺贈する。」というものです。このような遺言の効力が認められるのであれば、上記Aの不安(Bが死亡すると国に財産がとられてしまう)も払拭できるでしょう。

1)最高裁の判断と学説の見解
ただ、これと類似した遺言条項がある場合(実際の遺言条項は、もっと複雑です。)において、原審が「これを後継ぎ遺贈として無効とし、後段部分(上記Bの死亡後はCに遺贈するという部分に対応)の法的効力を否定し、前段部分(上記Aの財産をBに遺贈するという部分に)のみが有効である」としたところ、最2小判昭和58年3月18日は「本件遺言書の全記載、本件遺言書作成当時の事情なども考慮して、本件遺贈の趣旨を明らかにすべきである」として、これを破棄差戻ししました。結局、最高裁としては、後継ぎ遺贈についての判断を明確にしていない訳です。むしろ、学説では、Bが生存しているうちの財産についての権利がどのようなものであるか不明確なので、そのような遺言の効力は認められないとする見解も有力です。Bが財産を遺贈されたのであれば、その時点でBが所有権を取得し、その財産を自由に使用、収益、処分できる(206条)筈ですが、Bの死亡後はCに遺贈するという効果を認めようとすれば、結局、Bは財産を自由に処分等できなくなるからです。その意味で、このような遺言をすれば必ずしも望んだどおりの結果が期待できる保障はなさそうです。Aの希望が最終的に財産を国庫に帰属させたくないという点にあるならば、上記後段部分(Bの死亡後はCに遺贈する)の効力こそが認められるべきですが、上記原審はこれを否定しており、有力説もこのような遺言の効力を認めていないからです(後継ぎ遺贈については、久貴編(床谷担当)「後継ぎ遺贈なるもの」遺言と遺留分第1巻・日本評論社269頁以下が、簡潔にまとまっています。)。

2)負担付贈与の活用
Aの意図が、とりあえずBの面倒を見てほしいという点にあれば、前述した場合と同様に、Bの面倒をみることを負担として、財産をCに遺贈するというのも手です。上記昭和58年判例も、上記遺言条項(Aの財産をBに遺贈する。Bの死亡後はCに遺贈する。)について「負担付遺贈」と解する余地があると指摘しています。ならば、より明確に「Bの面倒を見ることを負担として財産をCに遺贈する」という遺言条項にしてしまうということです。このようにしておいて、遺言執行者を置けばCがBの面倒をみることは合理的に期待できますが、そもそもの問題として、財産が、BではなくCにそのまま帰属してしまうので、Aに抵抗があることもあるでしょう。

遺言信託の活用
そこで、遺言信託という方法も考えられます(信託法3条2号)。これは、Aの財産を、Bを受益者として第三者に受託し定期的な金銭給付等をさせる。信託期間はBの生存中として、その後の財産の帰属者としてはCを指定するというものです(比留田監「遺言書の書き方と相続・贈与」主婦の友社110頁)。

【関連コラム】
精神的障害の子供のいる人の遺言①後見人

【コラム執筆者】
村上・新村法律事務所
弁護士 村上博一

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