M&A手続を利用した債務の切り離しと債権者の保護

掲載日 : 2013年6月11日

M&Aは、Merger&Acquisition(合併と買収)の略称であり、企業合併や企業買収の総称です。

M&Aというと、大企業の合併やベンチャー企業の買収などを思い浮かべるのですが、実務では中小企業同士の合併や買収なども無数に行われています。

債務と優良事業の切り離し
そんな中で、近時問題となっているのが、M&Aの手続を利用した債務の切り離し(切り捨て)です。
たとえば、非常に多くの負債を抱えているものの、収益性の見込める事業や優良な資産(担保余力のある資産など)を有している企業があるとします。その企業が、収益事業や優良資産を切り離して生き残るため、「事業譲渡」としてそれらのみを他者に譲渡したり、新たに設立した会社に譲渡したりすることがあります。

さらに、「会社分割」という制度を利用して、一つの会社を新しい会社(ここでは便宜上「新会社」といいます)ともとの会社(便宜上「旧会社」といいます)に分割し、新会社には収益事業や優良資産を承継させる一方で負債は承継させず、旧会社に負債や不良資産を残す、という手法がとられることがあります。

これらの「事業譲渡」や「会社分割」という手法がとられた場合、優良資産が切り離され、負債や不良資産ばかり残されたもとの会社に対して債権を有している債権者とすれば、本来回収できたはずの債権が回収できなくなるという危険を負うことになります。

もちろん、法律もそのような債務の切り捨てを無条件に許しているのではありません。そこで、事業譲渡や会社分割において、債権者の保護はどのような形でなされるのかを見てみたいと思います。

債権者の保護
(1)事業譲渡の場合
事業譲渡として収益性のある事業や優良資産を譲渡する場合には、それらの価値を適正に評価したうえで、適正な対価が支払われなければなりません(図-1)。

言い換えれば、譲渡される事業の価値に見合う適正な対価がもとの会社に支払われるのであれば、譲渡された事業のかわりに対価(金銭)がもとの会社に入ってきますので、結果として資産の価値に変動はありません(図-2)。
そうであれば、もとの会社の債権者は、事業譲渡前と比較して特に不利な立場に置かれるわけではということになりますので、適正な事業譲渡対価が支払われている限り、それ以上の特別な保護は必要ないということになります。

また、事業譲渡に伴い、債務の帰属先(債務者)が変更となる場合には、債権者の個別承諾が必要となりますので、債権者としては、自分の知らない間に、より信用のない会社に債務者が変わってしまうようなことはありません。

(2)会社分割の場合
会社分割の場合、債務が新会社に帰属するか旧会社に帰属するかにより、債権者の回収可能性に変動が生じる可能性があります。そこで、会社法は、会社分割に際しては、それにより害される(回収可能性に変動が生じる)可能性のある債権者に対しては、会社法に定める債権者保護手続を行わなければならないと定めています。具体的には、債権者に対して公告・催告することにより会社分割が行われることを債権者に知らせるとともに、異議のある債権者に対しては債務の弁済や担保の提供などをしなければなりません。

一方、会社分割が行われても、債権者の回収可能性に変動が生じない場合には、債権者を害することはないため、債権者保護手続を行う必要はありません。

よって、事業譲渡によっても、会社分割によっても、債権者が不測の損害を生じないようにするための仕組みが会社法上用意されているといえます。

【関連コラム】
濫用的会社分割とは
濫用的会社分割と債権者の対抗手段

【コラム執筆者】
ソラリス法律事務所
弁護士 松村 直哉