家賃滞納トラブルの事前対応策

掲載日 : 2013年5月14日

特約条項の限界
賃貸借契約の特約として、「賃借人が賃料を滞納した場合には、賃貸人は賃借人の承諾を得ずに建物内に立ち入り、適当な処理をとることができる。」といった旨の条項(自力救済条項)を定めることで家賃滞納問題が解決できるのでしょうか。

この点、東京地裁平成18年5月30日判決は、賃貸借契約において、①賃借人が賃料を滞納した場合、賃貸人は、賃借人の承諾を得ずに本件建物内に立ち入り、適当な処置をとることができる(以下「本件特約」といいます。)、②賃借人が賃料を2ヶ月分以上滞納した場合は、賃貸人は賃借人に対して何らの通知、催告なく本件賃貸借契約を解除することができる旨定められていたケースで、管理会社の従業員が、賃借人が2ヶ月分以上賃料を滞納していたことから賃貸借契約を解除した上で、賃借人の不在中に賃貸物件内に立ち入り、侵入防止のための施錠具を取り付けるなどした行為(以下「本件立ち入り行為」といいます。)について、本件特約は、『法的手続によったのでは権利の実現が不可能又は著しく困難であると認められる緊急やむを得ない特別な事情』があるといえない場合に適用されるときは、公序良俗に反して、無効である、と述べ、本件立ち入り行為について賃借人の本件建物において平穏に生活する権利を侵害する違法な行為というべきであるとしました。

この他にも、賃貸借契約の特約として自力救済条項が定められている場合に、同条項に基づいて賃貸人側が行った自力救済行為の適否が争われた裁判例が存在しますが、東京高判平成3年1月29日、浦和地判平成6年4月22日、札幌地判平成11年12月24日のいずれのケースにおいても、賃貸人の行為について不法行為が成立するとされています。
このような裁判例に照らせば、賃貸借契約の特約として自力救済条項を定めていたとしても、そのことをもって同条項に基づく自力救済行為が適法とされるものでないことが認められます。

賃貸人側からの相談を受ける中で、賃貸人の方々が、賃料を滞納されている上にさらに費用をかけて法的手続をとらなければならないということについて憤りを感じる気持ちは当然であると思うことが多々あります。しかし、現在の実務では、自力救済が認められる余地は極めて少ないと考えて頂いた方がよいのではないかと思います。

現実的な事前対応策
このような実務の状況に照らせば、賃料滞納トラブルに対しては、①契約締結前に賃借人の生活状況等を確かめ、家賃の支払い能力に問題がないかを確認する、②支払能力のある保証人を準備してもらう、③敷金を多めに入れてもらう、といった事前の予防策が重要になると思われます。
また、賃料滞納の問題の中には、専門家からの内容証明郵便による督促等によって解決できるケースもあるかと考えますので、滞納が始まった場合には、滞納額が多額になる前に、一度早い段階で専門家に相談されることをおすすめします。

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【コラム執筆者】
アクシス国際法律事務所
弁護士 三村 雅一