賃貸マンションの貸室内で賃借人が自殺した場合の告知義務の範囲について

掲載日 : 2013年1月11日

宅建業者は、賃貸マンションの入居者を募集するにあたり、入居希望者が最終的に入居するか否かを決める上で重要な事項を説明しなければならないことが宅建業法47条1号で定められており(告知義務といいます)、賃貸マンションの貸室内で賃借人が自殺したことも「相手方等の判断に重要な影響を及ぼすこととなるもの」に該当し、告知義務の対象とされています。

しかし、賃貸マンションの貸室内で賃借人が自殺した場合に、賃貸マンション内のその部屋以外の貸室の入居者を募集する際に、別の部屋で自殺があったことを告知しなければならないのか、また、その部屋の入居者を募集する度に、いつまでも自殺があったことを告知しなければならないのか等については必ずしも明確ではありません。

この点につき、まず、賃貸マンション内のその部屋以外の貸室の入居者を募集する際に、別の部屋で自殺があったことを告知しなければならないのかについて、裁判例は、賃貸マンションのように貸室の独立性が高い場合には、その部屋以外の貸室への心理的影響は小さいものとして、宅建業法上の告知義務の対象ではないと判断しています(大阪地裁平成24年11月7日判決)。

次に、その部屋の入居者を募集する度に、いつまでも自殺があったことを告知しなければならないのかについて、裁判例は、自殺後の物件に住むことの心理的嫌悪感は時間の経過とともに希薄となるものであるうえ、一般的に、自殺事故の後に新たな賃借人が居住をすれば、特別の事情(その賃借人がごく短期間で退去したといった事情)がない限り、新たな居住者がその物件で一定期間生活をすること自体により、その後の入居者の心理的嫌悪感の影響もかなりの程度薄れるとして、自殺があった後の最初の入居者に対しては宅建業法上の告知義務があるものの、(一旦別の入居者がいた場合には)その後の入居者に対しては、特別な事情がない限り、宅建業法上の告知義務はないと判断しています(東京地裁平成19年8月10日判決)。

したがって、賃貸マンション内で自殺者が出た後、別の部屋の入居者や、その部屋の2人目以降の入居者との間で、自殺者が出たことを告げなかったことによりトラブルが生じた場合、賃貸借契約が有効か否か、入居者に損害が生じたか否かという民法上の問題が起こりうる(ただし、裁判例の傾向からして入居者側が勝訴する見通しはそれほど高くないと思われます)ことは別として、宅建業法上の告知義務違反を理由として宅建業者に行政処分がなされることは裁判例の結論に反するものと言えます。

【コラム執筆者】
きっかわ法律事務所
弁護士 浜本 光浩